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鋼鉄勇者ジャスティール

作者: 木こる

大学生の鉄志は一回り離れた年齢の姉に呼び出されて東京に来ていた。

彼が小学生の頃に姉は上京し、それ以来音信不通だったのが突然の再会だった。

姉との記憶はあまりない。彼女は男の家を渡り歩いて家には寄りつかなかった。


姉から持ち掛けられた話は予想通り、碌でもない内容だった。

彼女は会社の金を横領してお気に入りのホストに貢いでいたらしく、

その埋め合わせで闇金に手を出して泥沼に嵌まったそうだ。


首が回らなくなった彼女は違法な風俗店で働かされ、

そこで人気No.1の嬢となり、多数の映像作品に出演し、

いつしか自分の会社を立ち上げるまでになっていた。

そこに就職して専属男優になってみないかという誘いだった。


鉄志は女性経験がないことを告げると、姉は大層驚いていた。

悪気はないのだろう。彼女はそういう世界で生きてきたのだ。

きっと珍しいことじゃない。未経験の仲間はたくさんいるはずだ。


そんなことを考えている時だった。

喫茶店の外で悲鳴が上がり、辺りは逃げ惑う人々でごった返していた。

大地が揺れ、向かいのビルのガラスが割れた。

それは自然災害ではなかった。


異星人の襲来だった。


彼らは人の形に似ているが、それが違う生物だというのは直感的に理解できた。

全員が服を着ていないし、キシャキシャと音を立てて仲間と会話していた。

どう見ても友好関係を求めてやってきた様子ではない。これは侵略だ。

対話を求めたサラリーマン風の男性は吹き飛ばされ、ガラスに突っ込んだ。

侵略者たちはその光景を見て喜んでいるようだった。


鉄志はここにいては危ないと確信し、呆然としている姉の手を引いて店を出た。

初めて来る東京。まだ観光もしていないし土地勘がない。

逃げる先は駅しか思いつかなかったが、そう考えたのは彼だけではなかった。

駅周辺は大量の人間で埋め尽くされており、とても電車には乗れなさそうだった。

タクシー乗り場やバス乗り場も同じで、行列が出来上がっていた。


「クソッ、人間め……!」


順番を待っていては間に合わない。

そう判断し、姉にどこか隠れられる場所はないか尋ねたところ

彼女が経営する映像作品制作会社に案内された。


そこには既に多くの避難民が身を寄せ合っていた。

彼らはこの理不尽な状況を受け入れられておらず、泣き出す少女もいた。

壁に貼ってあるポスターを食い入るように見つめる少年の姿もあった。

人材募集の貼り紙に目を通す中年男性もいた。

とにかく現場は混迷を極めていた。


「鉄志君! こっちじゃ!」


突然声を掛けられ、鉄志はびっくりした。

こんな所に姉以外の見知った人物がいたのだ。


「あなたは…… 発明おじさん!」


彼は地元で有名な変人で、よくわからない発明を趣味にしている人だった。

小学生の頃に親や教師から「あの人に近づいてはいけない」と教えられ、

鉄志はその教えを守ってきた。その変人が鉄志の名前を呼んだのだ。


「わしはこんな事態に備えて対策を講じておったのじゃ!

 鉄志君! このベルトを受け取れ!」


そう言って投げてきたベルトはゴツゴツしており、

当たったら痛そうだったので避けた。


「拾うんじゃ! 鉄志君!」


鉄志は発明おじさんを睨んだ。まずは説明が欲しい。


「そのベルトはいわゆる変身アイテムじゃ!

 生身の人間では奴等に対抗できん!

 君は変身ヒーローとなって人々を救うんじゃ!」


あまりにも突然で一方的な発言。

しかし侵略者の攻撃は激しく、そこかしこでガラスの割れる音がする。

このまま何もせずにいたら被害は増え続けるだろう。

泣いている少女の姿を見て、誰かが戦わなければいけないと感じた。

自分がその誰かになるのも悪くない、そう思い立って鉄志はベルトを拾った。


「──変身!」


掛け声に反応してベルトの装飾が点滅し、円形の部品が回転した。

その回転が終わると点滅が終了し、それ以上は何も起きなかった。


「変身するためにはまず侵略者(ベイダー)を倒し、

 宇宙エネルギーを回収する必要があるんじゃ!

 しばらくは生身で戦い、エネルギーの回収に専念するんじゃ!」


「生身の人間では対抗できないってさっき…」


「鉄志君! この少女がどうなってもいいのか!?」


鉄志は人質を取られている気分になった。

やはり関わってはいけない人物だったようだ。

しかしベルトを拾ってしまった以上、みんなが注目しているので

後には退けない状況に立たされていた。完全に嵌められた気分だった。


消防斧(マスターキー)を手にした鉄志は覚悟を決め、侵略者に攻撃を仕掛けた。

奴等に気付かれないよう慎重に近づき、一番トロそうな個体を狙った。

首を刎ねるつもりで斧を振ったが、途中で引っ掛かって分離は出来なかった。

青い液体が辺りに飛び散り、その個体は地面に突っ伏して動かなくなった。


仲間の死に呆然としている個体の頭に斧が刺さる。

そこでようやく人類が反撃している事に気付いたようだ。

奴等は恐怖に怯えてガラスを割りながら全員が同じ方向に逃げ出した。

逃げ遅れた個体の頭が割れる。これで3匹だ。


幸い奴等の足は遅く、地球の重力に慣れていないようだった。

4匹目の肩を掴み、転倒した所にトドメの振り下ろしを決めた。

ベルトのメーターを見ると今ので宇宙エネルギーが5%まで溜まったようだ。

単純計算すると100%になるには80匹倒さなければいけない事になる。

多いように感じるが、手応えからすると無理な数ではないようにも思えた。


そう割り切ってからは作業だった。

5匹、10匹、20匹、40匹……まとまって逃げてくれるおかげで探さなくていい。

奴等も鉄志と同じで土地勘がないのだ。だから知り合いのそばを離れられない。

70匹、75匹、79匹……。そして最後の1匹がガラスを突き破った所で捕まった。


鉄志は斧の扱いを習熟したようで、80匹目の首と胴体を分離する事が出来た。


「──変身!」


ベルトが反応し、鉄志は合金製のパワードスーツに包み込まれた。

全身にかつてない活力がみなぎるのを感じた。

この力があればどんな敵にも負ける気がしない。


正義の心(ジャスティス)鋼鉄の体(スティール)、鋼鉄勇者ジャスティールが誕生した瞬間だった。


その後、鉄志は80匹の侵略者から人々を救ったヒーローとして有名になった。

大手芸能事務所から仕事のオファーが来たり、彼女が出来たりして今は幸せです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ……あれっ80匹って……もしかして変身しなくても(以下略) 淡々と進みつつそこかしこの地の文にくすりとさせられる言葉が織り交ぜられていて、楽しく読ませて頂きました。 鉄志くん強いですね……!…
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