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06 驚愕




気がおかしくなりそうだった。


任務明け。

家まで走って帰った俺は、フィンリーの名を呼び家中を回った。

だが、フィンリーの姿はどこにもなかったのだ。



俺は乱暴にドアを開け、家を飛び出すと兵士宿舎に向かった。


奴が宿舎の、どの部屋を使っていたか。

記憶を手繰りながら走る。


頭の中で宿舎へ一番早く着く道順と、着いたら飛び込む部屋を確認していた。

だが、宿舎に着く前にこちらに向かって歩いてくる奴が見えた。


見ただけで腑が煮えくりかえった。

そのすました顔に向け、俺は大声で奴の名を叫んだ。


「――っグレン!」


グレンは俺を見て軽い挨拶のように片手を上げた。


すぐに胸ぐらを掴んで殴りたい気持ちに囚われた。

だが、何とか理性で押さえて言う。


「今朝フィンリーを助けてくれたそうだな。悪かった。

―――で。フィンリーはどこにいるか知ってるか。

家にはいなかったんだが」


「貴方を呼びに行くところでした。彼女は――」


「――お前の部屋か、グレン」


「ええ」


「一日中か」


「……そうですが。

何か問題がありますか?」


「―――――」


俺が、タニアの部屋に泊まったことをフィンリーに咎められて、

「おかしな想像をするな!」と言い返したことを知っていて言われた気がした。


俺の気持ちを見透かしたようにグレンはふっと笑った。


「何もありませんよ。

彼女が倒れた場所から近かったので兵士宿舎へ。

そして私は彼女を介抱していただけ。いいえ、様子を見ていただけです。

疲れていたのか、彼女はずっと眠っていましたから」


「―――――」


俺は一晩寝ずに俺の帰りを待っていたと言ったフィンリーの顔を思い出し、手を握った。


「……そうか。悪かったな。

改めて礼はする。とにかくフィンリーを連れて帰る」


話は終わりだとばかりに宿舎の方向へ身体を向けた。

しかしグレンが後ろから俺をとめた。


「待ってください。その前に、伝えたいことが。

私はその為に貴方を迎えに行こうとしていたのです。

実は、彼女は今―――」


俺は

走り出していた。



グレンも走って追いかけてきた。


ずっと「待ってください!」と繰り返していた。

だが俺は無視して走り続けた。

はじめから奴の言葉など聞く気もなかったのだ。


……だから気がついていなかった。


今日のグレンの言葉使いが、いつものそれと全く違っていたことに。



すぐそこのはずの宿舎は遠く感じた。

それでも何とかグレンを振り切ってたどり着くと、俺はグレンの部屋のドアを体当たりするようにして開けた。


中には驚いて目を丸くしているフィンリーがいた。

ベッドに腰かけている。


「フィンリー!」


姿を見たら安心して力が抜けた。


「大丈夫か?ほら、帰るぞ」


息を整える間も惜しかった。

俺はすぐにフィンリーの手をとった。



だが


フィンリーは俺の手をはらった。



「離して!

誰ですか貴方は。いきなり、無礼でしょう」



時が

止まった気がした。



何を言われたのかわからなかった。

言葉が出なかった。


確かにフィンリーだ。

声も。その顔も。


だがその言葉と表情は……まるで知らない人間のようで―――。



「フローレンス様!」


グレンが部屋に飛び込んできた。

そしてそのままフィンリーに近づくと頭を下げた。


「フローレンス様。申し訳ありません。

この方は……彷徨っていた貴女を助けて下さった方です。

お許しを。まだこの方に今の状況をお話できていないのです」


「――まあ、この方が?」


フィンリーは俺を見て


「彷徨っていた私を助けてくれた方でしたか。

ありがとう。礼を言います」


そう言うと、知らない表情で微笑んだ。



何がおきているのか。

全くわからなかった。


立ち尽くしている俺に、グレンが囁いた。


「……14歳までの……以前の記憶を取り戻されたのです。

この方はフローレンス様。

―――この国の第四王女殿下でいらっしゃいます」



記憶が戻った?

フィンリーの?


それは理解できた。

だが。


王女?

この国の?


フィンリーが

王女……?



呆然とフィンリーを見ていると

フィンリーは困ったようにグレンに顔を向けた。


そして言った。


「リアン。どうしましょう。なんて言ったらいいの?

私は、まだこちらで過ごした記憶が……」


「この方には私から説明をします。

申し訳ありませんが、フローレンス様はこの部屋で少しお待ち下さい」


「ええ。わかったわ」


二人の会話はまるで異国の言葉のように理解できなかった。

しかし、ただひとつ―――。


「……リアン……?」


カラカラになった口で、俺は何とか声にした。


思わずなのか、グレンは俺から目を逸らした。


フィンリーはそんなグレンと俺の顔を交互に見て

戸惑ったようだが、誇らしそうに告げてきた。



「彼の名前です。

彼はリアンヴェルト・グレン。

私の幼馴染で、私が最も信頼する優秀な護衛騎士です」




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