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#プロローグ 「初出勤」


禍者(マガモノ)》  


それは”思念の塊”


人に憑き、人を喰らう、化物の総称である。




今から五十年前、西暦2000年を境に境に一部の人間にしか視ることのできなかった《禍者》が大勢の人々に視認されるようになり、それに伴い《禍者》とのトラブルが発生、問題となっていった。


十年前、古来より《禍者》退治を生業としていた退魔師の一族たちにより政府公認となる専門の組織が設立された。



それが《禍者》退治専門機関『退魔課』である。





「ううう……不安だなあ……」




 僕は先程からとある一室の扉の前でうんうんと唸っていた。


『退魔課』と書かれたプレートを掲げた部屋の前で真新しいスーツを着た、というより着られている状態の僕は本日付で『退魔課』練摩支部ねりましぶに配属された新人退魔官だ。



「バイトもしたことないのにもう社会人になるなんてちゃんとやっていけるかなぁ。怖い人たちだったらどうしよう。」



 中学卒業後、退魔師養成学校に進み一年課程を終了した僕は現在十六歳になる。


同年代の人達はまだまだ高校生として学業に励んでいる年齢だけど僕はこれから大人の人達に混ざって社会人として一人前にやっていかなくてはいけないのだ。だからこんなところで怖気づいているわけにはいかない。


 僕は思い切って勢いよく扉を開けた。



「失礼します! 本日付でこちらに配属になりました、茅野大河(かやのたいが)です!」



 グワンッ!



「いったーー!! ……くはない??」



 頭の上に何かが落ちてきた!? でも物凄い音はしたけど思ったほど痛くはない。


 床を見るとタライが、落ちた振動でまだクワンクワンと揺れていた。


 タライか。今落ちてきたのはタライか。タライならたしかに音の大きさほどには痛くないはずだよね。なるほどー、ってなんでタライが!?



「いえ~大・成・功~!」



 予想外の状況に僕が自体を把握できずにいると部屋の中に居た人達がイエーイとハイタッチしていた。



「うーむやっぱりここはベタに黒板消しのほうが良かったでしょうか?」

「ほらー僕の言った通りっしょー? やっぱタライじゃリアクション取りづらいって~! 白いのがボホってなるほうがさ~」



「は??」



 部屋の主たちは思ったようなリアクションが返ってこなかったことに不満だったみたいだ。


 この人達が昔のコントよろしく扉を開けたと同時にタライが頭上に落ちるように仕掛けた張本人たちだろうか。僕からすればタライでも黒板消しでも固まる以外の選択肢はないんだけど……。


 もしやこれは俗に言う新人イビリなのだろうか? 初出勤にして早くも試練が??



「茅野大河くん!」

「は、はい!」

「ようこそ! 練摩(ねりま)支部へ!」



 そういうと扇子を広げ、こんどは頭上に紙吹雪を撒き散らしながらやんややんやと大歓迎ムードを演出してくれた。


 なんだろう……これはどういうテンションで返すのが正解なんだろう?? 空気を読むって難しい、社会人になるって大変だ!



「はい! あの、よろしくおねがいします!!」

「あはは真面目な子ですねーとても好感持てます!」

「あ、あの……班長さん、ですか?」



 退魔課練摩支部の面々は男性三人。僕は先程から親しげに話しかけてくれている若いおかっぱ髪の男の人、ではなく後ろの赤毛の人に問いかける。


 赤毛の人は見るからに大きくて強そうで年齢もこの中で一番上に思えたからだ。



「いや、班長はそっちだ」



 そういって指ししめしたのはおかっぱ髪の男の人のほうだった。



「はいはい! 班長は私ですよ!」

「え、うそ!? あ、すみません」



 それもそのはず、おかっぱ髪の人は平均よりも身長が低い僕よりもさらに背が小さくて年齢も僕と対して変わらないくらいに見えたからだ。


 ふわふわした髪と表情でまるで女の子のようだ。声を聞いていなかったらきっと間違えていた気がする。


 加えて女性物のような着物を上着のように羽織っているため更にそう見えてしまう。



「私がここの班長の葉山龍之介(はやまりゅうのすけ)です。こう見えてちゃんと成人していますよ。私は二十二歳ですから!」


 僕の思っていることが全て顔に出てしまっていたのか葉山と名乗った練摩支部の班長さんに念入りに主張されてしまった。人を見た目で判断してしまうなんて初対面でいきなり失礼なことをしてしまった。今後気をつけなくては。



「吾輩は野火太狼(のびたろう)。よろしく願おう新人」

「よ、よろしくおねがいします!」

「うむ」



 野火と名乗ったこの人は先程の班長だと思った赤毛の大きな人だ。ワイルドでクールな印象なんだけど一人称、吾輩……なんだ……。変な人なのかな……。いやいやさっき第一印象で勝手に人を判断してはいけないと決めたばかりじゃないか。



「んn! それがし空田翔(そらたかける)と申す者なりよろしく新人!」

「はい、よろしくおねがいします……!」


 それがし……さっきは普通だったのに……?


 三人目の空田と名乗ったこの人もひょろっとした背の小さい男性で僕とそう変わらない身長に見えた。眼鏡をかけ髪をきちんと整えていてクラスの学級委員長のような印象だ。



「自己紹介おわった~?」



 奥の休憩スペースからスーツの恰幅のいい五十代くらいの男の人が出てきた。後ろから二十代くらいの綺麗な秘書風の女の人も出てくる。



「うちのおやっさんです」

「おやっさん」

「茅野くんは呼ばなくていいからね。課長の吉田です。課長っていっても僕は退魔官じゃないから現場には出ることはないけどよろしくね。」

「私もサポート全般任されてます。森宮あい子です。よろしくね」

「はい!」



 ということは本当にこの支部には退魔官は三人だけみたいだった。大きい野火さんはともかくこの二人は本当に退魔官……なんだろうか?? 僕が言うのも何だけど恐ろしい化け物と戦う人達には到底見えなかった。



「机そこ自由に使ってね。みんな割と勝手にしてるけどあんまり散らかさないでね。」



 そう言って森宮さんと課長さんは『退魔課』の部屋を出ていった。


 森宮さんに促された部屋に並べてあるオフィスデスクは勝手してると言うだけあってみんな各々の私物であろうものがごちゃごちゃと並べられていた。


 部屋の一番奥、「班長」というプレートが置いてあるデスクがおかしな置物やら書類やらで一番ごちゃついている。



「あ、そうそう、大河くん。あなたの履歴書見せてもらいましたが……あれ? おかしいですね~? ここに入れておいたと思ったのですが……」



 班長さんは自身のデスクの引き出しをガサゴソとあさりはじめるが、中はお菓子でいっぱいだった。どうやらあの中に僕の履歴書を仕舞い込んでしまったみたいだ。



「ほらあ~ちゃんと片付けないから~」

「うるさいですよ翔くん! あ~ありました! ありましたよ!」



 そうして引き出しの奥から無残にもくしゃくしゃに成り果てた僕の履歴書を引っ張り出した。


 お、大雑把な性格の人なのかな……?



「あなたの履歴書を見せてもらいましたが完全一般採用なのですね。どこかの退魔術師への弟子入り経験も無いのですか?」

「ありません。養成学校でもめずらしがられました」

「大抵は関係者だもんねこの業界」



 僕の履歴書を片手に班長さんは色々と質問をする。



「なぜ退魔官になろうと?」

「中学の進路説明のときたまたま受けた適性テストで合格ラインの倍以上の数値が出たとかでスカウトされたんです」

「確かに霊数値がS判定ですね」

「すごいじゃん!」

「だが実技はD判定であると」

「あちゃ~」



 班長さん以外の二人も僕の履歴書を覗き込んで書かれている内容をあれこれと確認している。


 そうなのだ。本来D判定はよっぽどのことがない限り出ない評価のため驚かれても無理はない。落第になってもおかしくはなかった。



「卒業合格ラインスレスレでした……」

「まあ全くの素人からの出発なのですから仕方がありませんね」



 そうは言っても僕の立場は新人退魔官とは形ばかりで、あくまで見習いとして現場を経験させ、力不足のようなら養成学校に送り返されてしまう。


 もう一年留年を進めた教師陣を説得し、配属先が見つかったからということでなんとか卒業させてもらえたのだった。



「正直所属先が決まるとは思っていませんでした。退魔官は命がけの大変な仕事だと習いました。でもここで精一杯頑張りますのでよろしくおねがいします! あの、班長さんが僕を採用してくれたと聞きました。ありがとうございました! でもどうして落第ギリギリの僕なんかを……?」


「人手不足だからですよ」

「へ?」

「うち、なんでか何度補充してもみんな辞めていってしまうんですよねえ」

「なんでなんだろうね~」

「何故なのだろうのう……」


 退魔官は政府公認機関だからここをやめてもよその支部に移ることになるだけだから無職になるわけじゃないけど、配属先をホイホイと変えていいわけじゃない。よっぽどのことがあったということなんだろうか……。



「なので! もうここ以外は行き場のない崖っぷちの人材を採用しようと思いまして!!」

「ぜってー逃さねえかんな! 大河!」



 そう言った空田さんの眼鏡がキラリと光った。これは、もしかして僕はとんでもなくブラックな職場に来てしまったんじゃないだろうか……!

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