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6:相部屋にて

 宿の者に相部屋をすすめられ、セシルは渋い顔をする。


(急な宿がとりにくいなら、先んじて予約しておくべきだった。決行日は事前に決めれるものではなかった。仕方ないと言えば、仕方ない。これぐらいの不都合は飲み込むか……)


 セシルは肚をくくった。


「私は同室でもかまわない」

「いいのか。ありがたい」

「大変申し訳ございません」

「私も早めに休みたいだけだ」

「もう一度宿探しかと思うとげんなりするところだった。本当、助かったよ。兄さん」


 胸をなでおろした眼帯の男は、のこった丸パンを二口で食べ終えて、スープをざばっと飲み干した。


 宿の者と値段を再交渉し、割り引いてもらう。一人ずつ用意できなかったお詫びだと、ワインを一本つけてもらえた。

 

 セシルと眼帯の男は、それぞれの宿代と食事の金額をカウンターで支払った。男が食事代について「いいのか」と気を使う。セシルは「気にするな」と呟いた。

 

 代金を回収し宿の者が去る。カウンターには一本の鍵とワイン一瓶が残される。


 早く休みたいセシルは、鍵を手にした。男はワインを掴む。「いくぞ」とセシルが呟くと二人は立ち、宿の階段をのぼった。

 部屋は三階の端だった。セシルは、手にした鍵で扉を開く。


 シングルベッドが二つならぶ。ベッドの間にはサイドテーブルがあり、対極の壁面に小さな机と椅子があった。ベッド横にフックがあり、ハンガーがかかっている。


 入室したセシルは、ベッドの間に置かれたサイドテーブルに鍵を置いた。


「へえ、なかなかいい部屋じゃないか」

 

 きょろきょろしながら入室した眼帯の男は、出入り口横の扉を開く。


「シャワーとトイレ付きだ。やった、飛んできたもんだから、数日風呂もシャワーもなかったんだ、助かる、助かる。本当に、ありがとな。兄さん」


 扉を閉めた男がにっと笑いながら、入ってくる。セシルは通路側のベッドに荷物をほおり投げ、回り込む時に、男とすれ違う。


「通路側のベッドを使うのか。なら、俺は窓側だな」


 眼帯の男はサイドテーブルにワイン瓶を置き、窓側のベッドに座る。屈んて、サイドテーブルの下にある引き出しを開けた。コップと茶葉とポット一式が入っており、男はコップ二つを取り出した。


「なあ、兄さんはワイン飲むか」

「いや。シャワー浴びて、すぐ寝る」


「ふうん。つまらないな」

「明日も仕事なんだ。寝不足はこたえる」

「えっ、旅人じゃないのか」

「ああ。ずっと王都で勤めている勤め人だよ」

「んっ? じゃあ、なんで、そんな恰好で、宿探しを?」


 答えずにセシルは、フード付きのボロのコートを脱いだ。二回ほろってから、ハンガーにかけて、フックにひっかける。


 ばさりとアッシュブラウンの髪が肩に背に広がった。窮屈だった首筋が解放され、気持ちよく、髪を払う。


「兄ちゃん、あんた、騎士か」

「そうだな」

「しかも、その目……、貴族だろ!」

「気にするな、一夜の宿だ。互いに明日は、他人だろ」


 セシルは一瞥をくれる。

 眼帯の男の方が、どんどん複雑な表情に変わる。ぱくぱくとちょっとだけ、上下に口が動いたものの、声はない。


「なに?」

「って! おまえ、女かよ!!」

「始めから女だが、なにか?」

「てっきり雰囲気から、男だと思って……。いや、悪い」


 正直に答えた男は、口元に拳を寄せた。


(この眼帯の男は、今さら何を言うか)


 元婚約者にも、男女と罵られている、その程度の勘違いなどセシルにはなんてこともない。


「先にシャワーを使うぞ」


 セシルはさっさとシャワー室へと向かった。男の困り顔も興味はない。


 髪をもちあげ、シャワーで体の汗を流すにとどめた。そなえつけのタオルでさっと体をふき、また着替えて部屋へ戻る。


 男はワインを開けて、手酌で飲んでいる。


「飲むか」

「どうするかな」


 上着を脱いで、セシルはベッドにほおる。投げ捨てていた荷袋を開いた。

 眼帯の男が立ち上がった。

 

「俺も汗流してくる。先に寝てろよ、お嬢様」


 ひらひらと手を振って、水場に消えた。


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