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ヘテロクロミアの魔眼騎士  作者: 礼(ゆき)


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33/50

33:朝食をとりながら

 窓から差し込む朝日が眩しい。自室で寝間着からシャツとパンツに着替え終えたセシルは、扉を開け、居間へ出た。

 デュレクはテーブルに朝食を並べている。


「なにからなにまで、すまない」

「気にするな。昨日の今日だ」


 椅子に座ったセシルの目の前には、塩胡椒を振りかけた目玉焼きと丸パンをのせた皿に、昨日のスープが盛られた小ぶりな器があった。

 屋敷で食べていた料理とは比べ物にもならない。粗末で簡単な料理だが、馬鹿にする気はみじんもわいてこない。むしろ、そんな料理さえ作ることができない自分に、セシルは悲嘆したくなる。

 一人で暮らすことが、寝る家があり、食べることができるだけでは成立しない現実を知った。


(昨日から、衣食住、世話になりっぱなしだ。私はほとほとなにもできないと思い知るよ)


 デュレクのお目付け役を団長に申し渡されたのに、セシルの方がデュレクを頼っている。あべこべだが、知らないものは知らない。無知な者がしゃしゃり出ても、無謀な失敗しかしないだろう。


(甘かったな)


 一人暮らしの面倒くささを知っていたら家を飛び出せなかったかもしれない。知らないということは、ある意味強いのだ。飛び出してみて、初めて開く道があるとセシルは身をもって理解する。


 水を注いだコップを持ってきたデュレクも座る。


「食べよう」

「いただきます」


 セシルは軽く頭を垂れた。

 背筋を伸ばした綺麗な礼に、育ちや職業がよく現れているとデュレクは思う。


 スープの具を口にしたセシル。昨日より味わいが深くなっていた。

 目玉焼きから食べ始めたデュレクが話しかける。


「なあ、セシル。明日の昼頃に登庁したら、まず兄貴、いや、団長の元に行くだろ。その後、どうなる?」

「霧がどうなっているか見に行く。状況によっては、殿下の意向を考えると、太子御所に張りつめることになるだろう。そのまま帰れないことも考えられる。

 霧は数日で垂れこめる。長ければ、二日くらい御所に詰めるかもしれない。その辺は、覚悟だな」

「副騎士団長の仕事って、太子の護衛なんだな」

「主たる仕事の一つだ。部下の訓練、書類の確認、護衛の責任者、警備の責任者などもある」

「意外と細かいな」

 

 うんざりするデュレクをよそに、セシルは淡々と続ける。


「警備や護衛には、現場責任の者がいる。書類の扱いにも専門の者がいる。子細の要点に目を通し、会議などで他の部署とすり合わせる仕事が多い」

「待て……、俺にそれをしろというのか。会議に出ろと!」

「むろん」

「待ってくれよ。そこで、俺に説明させたりしないだろうな」

「するだろ。仕事だ」

 

 セシルが流暢に宰相閣下と話している様をデュレクは思い出し、青ざめる。


「俺が、お偉いさんと話すの……」

「むろん」

「待ってくれよ、セシル。お偉いさんと話すことになるなんて、兄貴のやつ、そんなこと一言も言ってなかったぞ」

「当たり前だからじゃないか」

「違う、絶対に違う。それを言ったら、俺が来ないから、黙っていたんだ!」


 必死に頭を振って、兄の謀略を指摘するデュレク。まるで子供のように嫌がる様をセシルは食べる手を止めて、物珍しそうに眺めた。


 一人で暮らすとなればデュレクの方が上手じょうずだが、王宮での仕事においてはセシルの方が上手うわてだった。


「嫌だと言ってもな。宰相閣下だけでない、経理部門の長や、王宮内部を取り締まる女官や従僕を束ねる長、様々な立場の者と円卓を囲むことになるな」

「俺……、ちょっと前まで前線を這いずり回る一兵卒のつもりだったんだけど……」

「異例の出世だな」

「まったく、嬉しくねえ!!」


 呻くデュレクが頭を抱える。

 セシルにはデュレクの戦慄が理解しがたかった。


(魔眼もあり、前線で活躍した猛者なのに、ただの文官達が怖いのか)


 王宮の魔窟に馴染んでいるセシルは、不思議そうにデュレクを見つめる。


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