13:呪詛者は誰か
「殿下が狙われる理由の目星はついているのか、兄貴」
団長がしかめっ面になる。
デュレクは、口角をあげ、小首をかしいだ。
「そろそろ言うが、ここでは、俺は近衛騎士団長だ。以後は団長と呼べよ、デュレク」
「団長ねえ……」
「笑うなよ」
「笑ってないだろ」
何の会話だと斜めに盗み見ながら、セシルは紅茶を堪能する。
「近衛騎士副団長の二人は通称、副長と呼ばれる。副長と呼ぶ部下がいたら返事をしてやれよ、デュレク」
「どこいっても、役職名だな。俺、役職なんていらなんだけど」
「そう言うな。お前がいらなくても、組織としてないと困る。部下も混乱する、役職はお前のためにあるわけじゃない、部下の規律のためにあるとでも思っておけ。
その点、セシルは良い子だから、見習えよ」
「良い子ねえ……」
団長の一瞥を受け流し、デュレクは膝に肘をつき、複雑な表情を見せる。
紅茶をたしなみながら、二人のやり取りを聞いていたセシルは、静かに飲み終わったカップをローテーブルに戻した。
「デュレク、自ら発した問いはどうした」
「なんだっけ、セシル」
「殿下が狙われる理由だ、鳥頭」
「そうそう、理由は分かっているのか?」
「なにも、分かっていない」
「なにそれ? 一年、ただ浄化していただけってこと」
「そう思われても仕方ないがな。王宮内で起こることは、複雑だ。簡単に白黒つけられない」
「……にしてもなあ」
「だから、呼びつけたんだ。デュレク副長」
「やめてくれよ、兄貴。虫唾が走るわ」
「兄貴じゃない、団長だ」
「じゃあ、団長。なんで、そこまでほって置いた」
団長は両目を瞑り、渋い表情になる。首元に手を寄せ、ぐいっと後ろに撫でつけた。
「近衛に、呪詛返しの瞳を持つ貴族がいない。混血が進み、俺も含め、侯爵、伯爵、ともに瞳の力を持つ者が減っている。それこそ、いなくなったと言っても過言じゃない」
「本当にいなくなっているのか?」
「分からない。表向きは減っているんだ。公に出ているのは、そこにいるセシルだけだ。これ以上は、首を突っ込むな。俺たちの範疇を越える」
「わかったよ、団長」
「デュレク。前線から来たばかりなら馴染まないかもしれないが、ここは王宮だ。表向きは味方同士でも、実は敵と言うこともあれば、逆もある。裏をかいて、さらに裏があり、また裏を返してみないといけない分だけ、前線のように、敵と味方をすっぱりと分けることができない世界なんだ」
(分かりやすく説明するね。模範解答だ)
デュレクは、まじまじとセシルを眺める。
(髪を降ろしている方が可愛いな。仕事上、たばねてないと不便なんだろうな)
余計なことを考えているデュレクを、セシルは不可思議に見つめる。
「なにか、質問でもあるのか」
「いいや。興味深いなと思ってさ。前線だと、魔族性の生物を相手にすることばかりだから、はっきりあいつが敵、って分かりやすいのとは大違いってのは分かったよ」
余裕を醸しデュレクはにやっと笑う。
「今回は、魔眼を持つ者はいなくなったという霧の公爵家を巻き込んでいる。公にできない、早急にすすめられないにも事情がある」
「宰相か……。でっかいなあ」
団長が説明を引き継ぐ。
「デュレク、殿下と霧の公爵家である現宰相は通じており、非嫡出子の取り扱いで二年前から、法整備を進めている。
霧が殿下を害すれば、宰相にも調べが入る。知らぬ存ぜぬは通じないだろう。非嫡出子に関する法整備もとん挫するかもしれない。
そうなれば、ずっと先送りにしてきた問題を、さらに先送りすることになりかねない。もしかすると、この件は、殿下の廃嫡、宰相の失脚を狙った、血統主義者の一派かもしれない」
「面倒だね」
「思想は表立って見えるものではないからな。どこの家とも断定は難しい。
把握できていいない非嫡出子がどこかの血統主義の他家に囲われて利用されている可能性もある。宰相も良い顔はしなかったが、二代前の当主が奔放な方であったことは認めている」
「血統の流出と悪用ねえ……」
「血統主義者が絡む、絡まないにしろ、魔に通じるものが直接、霧を発している可能性も考えられる。考えたくはないが、一部の血統主義者が思想を優先するあまり、魔に属するものと手を組んでいることも考えられるだろう」
「霧の公爵家の血統か、霧の公爵家の仕業に見せるために魔族生の者が動いているか、それとは関係なしに、魔族生の者が偶然、霧を用いて殿下に手を出しているか……」
腕を組んだデュレクは、天井を見上げた。




