◆薔薇の国、ロッゼンティ、はずれの村②
「わぁ……」
ものの数分でボッコボコに変形した地面のシミにされたゾンビドラゴンに同情を覚えるレベルでドン引きの声を上げるキー。
ドラゴンゾンビってゲームだと結構強キャラだったんだけど現実にはそうでもなかったのだろうか、とぽかんとした顔で惨状を見つめるナツ、センに青白い顔でこれが都市伝説です……?と呟いている。
長い付き合いのあるライムだけが余裕を持った顔で風にあおられる髪を背に払う漆黒の姿を見ている。
「やっぱりライムが居ると討伐関係は楽でいいわね」
ふわりと宙をおよぐように浮き上がった漆黒が馬車の横に着地すると何も考えずに戦えるわ。とのんびりと伸びをする。
「また魔法の威力上げましたか?」
「ここを工房化してるのと術式も効率化したのよ。
それで、本気で館に来るの?
今ならまだいい感じの都市に送ってあげるわよ?」
前はもう少し時間がかかりましたよね?と聞くライムにまぁね。と頷いた漆黒が今からでも考え直さない?と確認する。
「何度も言わせないでください、私達は貴女をパーティに加入して貰いに来たのですよ」
「あと1年も待ってくれれば僕が魔族領を消し飛ばすからこんなお荷物の子守りしながら戦うなんて縛りプレイしなくてもいいじゃない」
行きますよ、と言うライムにナツ達を指差してはっきりとお荷物、と言った漆黒にライムは眉間に皺を寄せるが指を刺されてる先に居るナツやキー、センはと言うとラスボス戦に弱い仲間を入れて無事生還させる縛りプレイは確かにやりたくないよなぁ。と頷き合っている。
「漆黒」
「いくらライムのお願いでもこれは聞けないわ」
ライムと漆黒が真剣に進退の攻防を繰り広げ、魔力同士もぶつけているのかピリピリと肌を刺すような緊張感にゐぬや騎士団達がごくりと生唾を飲む。
「……わかったわ、とりあえず館には案内してあげる
ここで話し合っても埒が明かないだろうし……スペリア女王陛下のお使い騎士団もいるみたいだしね……」
しばらく睨み合いの様相を見せていた漆黒とライムだが、漆黒の方が諦めたように溜息をついて屋敷への案内を承諾する。
「……ナイト、居るでしょ?
館に連れていくことになったから来てくれる?」
指先で生み出した炎の鳥を飛ばした漆黒が馬車の影に向かって声をかけると、先程の漆黒と同じように影の中から滲み出す
ように現れた漆黒の鬣に夜空を溶かしたような体躯の黒革に金の装飾のされた鞍をつけた黒馬が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「仕方ないじゃない、力づくで適当な国に送っても呪いの人形みたいに戻ってきそうなんだもの」
その馬に向かって不貞腐れ気味に言い訳のような言葉を並べながらその背に腰掛ける。
所謂、横乗りスタイルだ。
「……あれが、漆黒様の愛馬……ナイトメア……噂には聞いていましたが、なんと立派な……」
重めの溜息をつきつつ先導するために馬を進める漆黒を見たガリウスがまるで王族の為の馬のようだ。と感嘆の声を漏らした。




