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Gaillardia・Coral   作者: 海花
花の国
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◆薔薇の国、ロッゼンティ、はずれの村

「騎士様、騎士様がいらっしゃった!」


「とうとうあの魔女めを討伐しにいらっしゃったに違いない!」


村に入ると農作業をしていた中年男性や家の中にいた老人がわらわらと外へ湧き出し、砂糖に群がる蟻のように馬車の周りに集まる。

進行方向に村人が居るのでそれ以上進む事も出来ずに困った顔で立ち止まる。


「何があったのですか?」


「あの魔女め、村の女子供をみんな攫って行っちまいやがったんだ!

お前達は要らないって俺らは残されたがおかげで大変な目にあってるんだ!

あの魔女に罰を与えてくれ!」


「うちの嫁も、孫もあの魔女に攫われちまった!

今頃は生贄にされちまってるに違いねぇ!

わしらの代わりに仇をうってくだせぇ!」


「頼む、あの魔女を殺してくれ!

あの魔女が魔物に襲わせてるに違いないんだ!

騎士様、どうかどうか、我々が殺される前に、あの魔女を討伐してくれ!」


これは、無理に通る訳にも行かないな。と諦めたガリウスが口を開くと村人たちが異口同音に魔女を殺せ。とガリウス達に懇願するのでそういうつもりで来たわけではないんだけどな。というように眉を下げたガリウスが落ち着いてください。と宥めるが殺せの大合唱は更に大きくなる。


「な、なんか物騒じゃない……?」


外の騒ぎを聞いたナツが怯えたような声でライムの方を伺うが、ライムは頭が痛い。とばかりに眉間を指で抑えてあのバカ……とボヤいている。


「いや、これ……さすがに不味くないです?」


「本当に、本当に、どこでもトラブル起こす天才ですか!

だいたい何があったか予想出来ましたが!本当に、あのバカ!」


ゐぬもこの状況に困惑した声を上げるがすぐにあーもうッ!と声を上げてキレ出したライムにえぇ……と言う表情を浮かべる。


「どこでもトラブルメーカーって居るよな……」


「なんで私を見るのかな、キーちゃん?」


悪態を吐きまくるライムにキーがわかるよ。と言う顔でセンに視線を投げると投げられた当人は私がトラブルメーカーだって言いたそうじゃん。とどういうことかな?と言う顔で首を傾げる。

そんなセンにキーは緩やかにため息をつく。


「魔女だ!」


1人の叫び声で集まっていた村人達は蜘蛛の子散らすように逃げていく。

声が聞こえた方を見ていたガリウスは黒いドレスを身に纏う少女の姿を上空に認めて目を細める。


月白レッフェンダーリィ様、あちらに漆黒ディービィ様が……」


「いえ、違います、あれは……敵襲です!」


ライムに確認を取ろうとしたガリウスの声に外へ顔を出したライムが慌てた声を上げて杖を握ると全員を守るために障壁を作り出す。

そこへ腐肉と腐った体液を滴らせるドラゴンが空から襲いかかってくるのを追撃のように追いかけてきた焔のドラゴンが横っ腹から突っ込み腐肉のドラゴンを村の外へ弾き飛ばす。


「だから来るなって言ったのに、言うこと聞きなさいよね」


漆黒ディービィ!」


次いで、馬車の影から滲むように現れた空に浮かぶ少女と同じような黒いレースとフリルでゴテゴテしく装飾されたミニドレスを身にまとい緑の猫のような目にモノクルを揺らし、長い髪を風になびかせる少女の不機嫌そうな文句にライムが助かったと言う顔を見せる。


「やあやあ、言う事聞かない勇者一行諸君!

他人の忠告はちゃんと聞くものだよ?無視したらこういう目に合うからね。

……まぁ、ライムが居るなら丁度いいわね。

ライム、今まで通り《ドラゴンゾンビ(アレ)》は僕が引き受けるから、村の防衛は任せるよ?」


ライムの乗る馬車の中をちらっと見た漆黒ディービィがやや芝居ががった挨拶をした後、それはそれ。と言いたげに空気を切り替えると確認するようにライムを見る。


「勿論です、その後で話がありますから逃げないで下さいね」


「うわ、今ので一気にやる気失くしたわ……全部放り出して逃げようかしら……」


ライムの了承の言葉の後に続くセリフにげんなりした表情で今なら僕は逃げれるし、と心底嫌そうな顔を浮かべる漆黒ディービィが迷う素振りを見せる。


漆黒ディービィ!」


「キャンディ?ライムが作ったやつ?」


そんな漆黒ディービィに仕方ない。というようにポケットに手を突っ込んだライムが投げたキャンディを受け取った漆黒ディービィがキョトンと首を傾げるとそうですよ、とライムは頷いてみせる。


「金剛糖から作りました、手土産にいくつかありますよ」


「……仕方ないわね、金剛飴は美味しいもの、手に入らないのは惜しいし、飴に罪は無いわ

金剛飴の為よ、そこの自称勇者の為じゃないわよ」


ライムがまだある包装紙に包まれたキャンディをチラつかせると先に貰ったキャンディを口に入れた漆黒ディービィがもごもごと言い訳しつつ勢いよく跳躍し馬車の屋根を蹴って即座にゾンビドラゴンへ肉薄する。


「待って、あの子丸腰!」


「援護するか?」


漆黒ディービィの動向を見守っていたセンが無手で特攻していく姿にやばいやばい、と声を上げてキーもさすがに目の前で死なれるのは寝覚めが悪すぎる、とボウガンを手に握る。


「必要ありませんよ」


「もういっぺん、死になさい!」


これで一旦の危機は去ったな。とリラックスするライムの言葉通り、漆黒ディービィの戦意の籠った声と共に派手な爆発音が地面ごと空気を揺らし、恐怖に脅える馬のいななきとそれを宥める騎士団の声、それからゾンビドラゴンの悲痛な悲鳴が響き渡った。

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