◆薔薇の国、ロッゼンティへの道中①
「ねぇ、ライム?」
「なんですか、勇者ナツ?」
あらからまた数日馬車で走り抜け、窓から寂れた荒地の続く道を見ていたナツがライムを振り返ると目を閉じて微動だにしなかったライムが目を開いて小さく首を傾げる。
「本当にこんな荒地に漆黒さんがいるの?」
「この荒地を作り出した本人がいる場所ですからね、居城に近づけば近づくほど荒地になってると思いますよ。
恐らく早い段階で魔族が潜伏できる建物を更地にして荒地にしたようですから」
「赴任して数年でここまで大規模に更地にできるものです?」
ナツの疑問に答えたライムの言葉にカードゲームのデッキ構成を考えてカードを眺めていたゐぬがちらりと視線をあげる。
「漆黒がその気になったら、1時間もあれば現状、人類最大都市である勇者ナツが暮らしていた聖都、グレイリロを更地にすることが出来ると思いますよ。
あの子は1人で戦術魔法を行使できますから」
「マジモンのバケモンじゃねーです?」
「えぇ、真性の化け物だと思いますよ。
実際、過去に戦術魔法を単独でポンポン気軽な感じに連発して崩壊したダンジョン1つを丸ごと焼き払った女ですよ、彼女は」
ゐぬの質問に肩を竦めて答えたライムにさすがに嘘だろうと思ったゐぬはイラついてそうなライムの顔にそっと口を閉じた。
「ねぇ、ライム
そのダンジョンの崩壊と戦術魔法ってなに?」
話に耳を傾けていたナツが初めて聞いた。という顔で首を傾げるとライムがこれも知らないのか。という呆れ顔を向けるが冒険者でも魔法使いでもなければ分からないか。と思い直したライムが軽く首を振ってから口を開く。
「ダンジョン崩壊、と言うのは言葉通りの魔物を生み出す闇の精霊由来の人類への悪意とも、光の精霊由来の人類への試練とも言われているあのダンジョンが何らかの理由で崩れることを指します。
ダンジョン崩壊には現状2種類の原因があるとされていて
1つはダンジョンを構成する核が破壊された時。
もうひとつは何らかの原因でダンジョンが維持できなくなった時、と言われています」
「ダンジョン!本当にあるんだ!
それで、その原因ごとに何か違うの?」
ライムの説明にゲームでよくある定番のあれが現実に!と目を輝かせるナツが先を促す。
「えぇ、まず核が破壊された時。
これに関してはかなり安全なダンジョン崩壊になります
被害としてはダンジョンを構成する空間が無くなったことによる地盤沈下とそれに伴う地震、くらいでしょうか
大型建築物の爆破解体と同じくらいの規模の被害と言ってもいいです。
核の破壊と同時に魔物も消滅しますから、ダンジョン由来の魔物の被害はありません、ダンジョン崩壊から逃れた平地の魔物達がパニック状態で人とかち合うくらいなものです」
「そのラヴァの破壊が所謂ダンジョン攻略ってやつなの?」
ふんふんと首振り人形のように縦に振り続けるナツとは違い斜め前の席で聞いていたセンがその割には何人も居るよね?と首を傾げる。
「ダンジョン攻略と言うのは核の破壊の事ではなく最下層のボスの討伐を指しますのでまた別の話ですね」
センの疑問にライムは冒険者の新人研修を思いだしますね、と思いながらセンの疑問に答える。
「例えダンジョン攻略したとしてもダンジョンは資源の宝庫でもありますから、冒険者ギルドにおいて核の破壊は原則禁止されています。
過去に許可された例では人類同士の戦争となった時に敗戦国が他国に奪われるくらいならば。と王命によって破壊された事例があるくらいで余程の理由がない限りダンジョン核の破壊などすることはありません」