◆フロッティーナハイル、旅立ち
「あの、ありがとうございました。
魔王討伐の旅が終わり、復興ができましたら是非、遊びにいらしてください、その時こそ国を上げて歓迎いたします」
準備云々と言っていたライムが1日で結界魔法をかけて稼働状況の確認で1週間ほど滞在したナツ達を見送りに来たサン王女と侍女のグラソル伯爵令嬢が両手を祈るように組んで深く膝を折って頭を下げるとその後ろに控えていた戦線復帰を果たした兵士達も一斉に膝をつき、両脇に下げた拳を地面にピタリと付けてから頭を垂れる。
この国での王侯貴族と兵士のそれぞれの階級での最上位の礼に驚いた様に動きを止めるライムだったが、ナツは慌てたように両手を振りながら頭を上げて!とあわあわという効果音が聞こえてきそうな素振りでサン王女の前に片膝を付く。
「勇者はなんにも出来なかったけど、魔王を倒したらきっとまた遊びに来るよ、お土産も持って!」
太陽のように輝く笑顔でそう告げたナツに頭を上げたサン王女の視線の先でライムも同意するように小さく微笑んで頷いてみせる。
センやキーも復興には金が必要だし、今度来た時にはちゃんと観光したいよね。と笑い合う。
ガラガラと音をさせ、《黎明の黒翼》が引いてきた馬車が城門の外へ止まる。
その音に促されるようにナツが立ち上がり、ナツに手を引かれてサン王女もまた立ち上がる。
「またね!」
開け放たれた馬車の中へ、次々に一礼をして乗り込む仲間達に続いて最後に乗ったナツが手を振る。
「どうかご無事で!勇者様方の旅路に光あれ!」
ガラガラと走り出した馬車を見送る為に王女が黄色いハンカチを大きく振る。
見送りに来た人々が次々にハンカチを振るその様はまるで一面に咲いた向日葵が風に揺れているようにも見える。
「旅の幸運を祈る見送りの仕方で、フルール連合国の伝統的な見送り方ですよ、いいものが見れましたね」
いつまでも揺れる黄色いハンカチの波に目を細めたライムの呟きにそうなんだ。と相槌を打つナツも揺れる黄色いハンカチが小さく、見えなくなっても暫くそちらを見つめていた。
「魔王を倒して、ちゃんと勇者になれたら、きっとまた来るよ」
「何か言った?」
「ううん、なんでもないよ」
ナツの決意を込めた呟きは馬車内の誰の耳にも届くことは無かったがナツの胸に守りたい、と言う小さな意志の火が確かに灯った。




