◆フロッティーナハイル、夜が明けて
「……って言う事が夜にあってね」
「漆黒が開いていた本の表紙を覚えていますか?」
「えっと、最初に鞄だと思った本は、多分黒でメメントモリ、って呼んでた。
その後に勇者が覗き込もうとして怒られた本は多分赤でアカシャ、って呼んでた、はず?
色は夜だからちょっと違うかも……」
昨夜の事を朝になってからライムに報告したナツに来てたのは気付いてましたが……と眉間に皺を寄せたライムから放たれた質問にうん?と首を傾げて昨日の記憶を辿ってナツが答えるとライムは額に手を当てて深い溜息をつく。
「まず、ナツが目にした黒い本、死想書は物騒な名前をしてますが、片羽がマジックバッグとして使っている収納をメインとしている魔導書です。
その次の赤い本、アカシャと呼んでいた本は恐らくアカシックレコードと呼ばれる魔導書でしょう」
昨夜に漆黒が使っていた魔導書にアタリをつけたライムがその本の名前を当てていく。
「アカシックレコード……?」
「えぇ、別名『神の書』とも呼ばれている魔導書で
現在、過去、未来におけるあらゆる事象が記録されていると言われています
漆黒は未来における最善手を選択するのに良く使っていますが、ナツに使ったということはナツの旅に関するあらゆる事象を閲覧したと見ていいでしょう、何か言っていましたか?」
アカシックレコードの名前に首を傾げたナツの為にライムがざっくりとした説明をした後にヒントでも無いだろうか、と言うように確認する。
「えっと、確か……
『やっぱり僕が1人で魔王城に殴り込みに行った方が早くないかしら……』
『これが勇者とか……』
『どう見たって甘やかされて育った貴族じゃない』
『ますますお前達と行動する訳にはいかないわね。ナツ·ヴァルトブルク、ライムに伝えなさい。
僕が動くから適当に諸国漫遊してなさい』って言ってたはず」
「そうですか」
ライムの淡白な返答にもしかして勇者のせいで漆黒さんは来てくれない?と眉を下げるナツにナツのせいではありませんよ、とライムが宥める。
「でも勇者の未来を見て行動しない、って言ったんだよね……?」
「えぇ、でも漆黒が合流を拒んだのは勇者のせいではありませんよ」
「取り込み中悪いが、朝食の時間だぞ」
「深刻な顔してるけど、どったの?」
困り顔のナツに緩やかに首を振ったライムが溜息を吐いた所で手伝いから戻ってきたキーと散歩から戻ってきたセンが扉から顔を出し、2人の様子に首を傾げる。
「セン、キーちやん……あのね?」
斯々然々、と昨夜の出来事を再度説明したナツが勇者のせいで、としょんぼりと落ち込むのを歩み寄ったセンが慰めるように肩を叩く。
「諸国漫遊してろって言われてるなら諸国漫遊中って言い張って会いに行こうぜ」
「セン……うん、そうだね。
魔法の使い方を教えてもらうまで勇者は諦めない!」
輝くような笑顔と共に親指を立てたセンにつられたように笑ったナツが目指せ、かっこいい勇者!と意気込みを語っている後ろで、魔法使いならここにも居るんですけどね。とライムが苦笑しながら今頃くしゃみでもしているんでしょうか、とよく晴れた窓の外を見て肩を竦めた。




