◆ドリアードの村①
旅に出て初めての戦闘に何とか勝ったナツとライムは銅貨と目玉や魔石、毛皮の入った皮袋をしまい安全に野宿できる場所を求めて歩いていた。
「怖かった、怖かったよぅ……」
「慣れてください、と言いたいところですが……同胞が無茶させませたね、すみません。」
未だに震えの止まらないナツは鞘に収めた大剣を杖代わりにして歩いている。
その少し前を歩くライムが突然立ちどまり無表情のまま頭を下げる。
「ううん、あの純黒って人が助けてくれなかったら私、多分殺されてたよ!
それに、ライムが怪我は治してくれたし!
こちらこそ助けてくれてありがとう。」
ライムの態度にハッとしたように目を開いたナツが気にしないで!と困ったような笑顔を浮かべる。
「いえ、私は勇者ナツを守るのが仕事ですから……」
「うん、だからちゃんと守ってくれてありがとう!」
気まずそうに顔を背けたライムにナツが弾けるような笑みを向ける。
そんなナツに仕事ですから。と背を向けたライムがスタスタと歩き始める。
「ねぇねぇ、ライム。
ひとつ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「純黒さん……カタハちゃん?ってどんな子なの?」
そんなライムを待ってよー、と追いかけるナツが横に並びニコニコと楽しそうな笑顔でライムに尋ねる。
そのナツの顔を一瞬ちらりと見たライムがハァ。と小さくため息をつく。
「純黒……いえ、もういいですね。
カタハは、私の学生時代の同級生で……それはそれはぶっ飛んだ子でしたよ。
教師には楯突くし、気に入らない、納得がいかない。という理由だけで暴力事件を起こすし、戦闘は1人で突っ走るし、ふらっと居なくなるし……言ってしまえば問題児ですね。
悪い子ではないですけど、全て自分中心の判断なので視野が狭いところがあります。」
虚空を見つめ過去に思いを馳せるように大抵私かもう1人が尻拭いさせられる迷惑を被ってました。とどこか恨みがましい言葉が混じる。
「問題児、なんだ。
そんな風には見えなかったけど……ライムはカタハちゃんのこと嫌い?」
「率直に聞きますね。
嫌いではありませんよ。
でなければ愚痴を聞いたりしません。
それに……良くも悪くも彼女は真っ直ぐですから腹の探り合いなんてしなくてもいいので楽です」
ナツの問いかけにライムが困ったような笑みを浮かべる。
その回答に私もいつか本当に会ってみたいな。とナツが太陽のような笑顔を浮かべる。
そんなナツにもっと鍛えないと僻地には行けませんよ、とライムが呆れたように笑みをこぼす。
そんな2人の進行方向の茂みが僅かに音を立てて揺れる。
「勇者ナツ」
「うん」
ライムが立ち止まり強く杖を握りしめて戦闘準備に入ると応えたナツも大剣の柄を強く握り直す。
「"報いの雨、復讐の刃、青い……」
ライムの声に大気が冷え始め渦を巻くと茂みの奥からヒェッという情けない声が響く。
どう聞いても獣の声ではない声にナツがえ?と間の抜けたような声を上げる。
「だ、誰かいるの?」
おっかなびっくり声をかけるナツの声に茂みからそろそろと姿を現したのは小柄な少女。
小柄なライムと同じくらいの体型だからそれよりも遥かに幼い顔をしている。
茶色い髪には白い小さな花飾りが飾られているがその肌は緑色をしている。
青い瞳には涙を浮かべて両手を上げたまま小さく震えている。
「ぞ、ゾン……ゾン……っ」
「ドリアードですよ。
……こんにちは、世界樹を母とする森の管理者よ。」
私これ、ゲームで見た事あるよ。と青い顔で震えるナツにライムが残念なものを見る目を向けたあと溜息をつき1歩前に出たライムが跪いて挨拶をするのにナツもよく分からないなりにライムの真似をして膝をつく。
「あ、あの!
その……お顔をあげてください……っ!
わ、わた、私は、その……長老様に、お2人をお連れするように言われたので……その……」
顔を真っ赤にさせてしどろもどろに説明するドリアードによれば森を害していた魔獣退治のお礼がしたいからドリアードの村に来て欲しいということだった。