◆フロッティーナハイル、王城最寄りの教会③
『これくらいなら神薬使えばいいじゃない、僕が送った中にあったでしょう?』
開けっ放しになっていた教会の扉から入ってきた鴉が1羽、ライムの肩に留まるなり、少女の甲高い声で話し始める。
「……漆黒。
取り引きに応じてくれてありがとうございます。
ですが、神薬は私が居なくなったあとの延命用に使うべきです、私のいる間は私が治癒を引き受けた方が継戦能力は維持しやすいはずです」
呆れたようにため息をついたライムがため息まじりに呟く。
「え、漆黒様がいらっしゃるんですか?」
ライム達の会話を通り過ぎざまに耳にしたガリウスがえ?という顔で立ち止まる。
白い軍服を着た大男を鴉がじっと見つめたあと
げっ、と声を出してその顔を器用に歪める。
『なんであの女王の犬っころがここにいるのよ』
「陛下の事を覚えていてくださったのですね!」
うわぁ、と嫌な不快な虫でも見つけたような顔の鴉は感激です!と言わんばかりに目を輝かせるガリウスと対照的にゲンナリした顔を見せる。
「おや?
漆黒、貴女スペリア女王陛下と友人ではありませんでしたか?」
『押しかけ女房みたいな生き物を友人って言うならそうでしょうね』
文通してるって聞いてますよ、と首を傾げるライムに漆黒の声を届ける鴉は眉間に皺を寄せているような声音でほぼ一方的なDMだよ、と呻くように返す。
「陛下が最近文通が10回に1回しか帰ってこないし、短い。と嘆いておられましたよ」
『疎遠になりたいって言う僕の気持ちを察する能力も欠如してて為政者として大丈夫?』
漆黒のあんまりな言い様に苦笑するガリウスの言葉に特大なのため息をついた鴉が答える。
『まぁ、いいや。
で、女王の犬っころはここで何をしてるの?』
「はい、月白様のお仕えする勇者様御一行の護衛ですね」
漆黒の問いかけににこやかに答えるガリウスの回答に鴉が舌打ちする様な声を出す。
『女王はなんて?』
「はい、漆黒様からお返事がいただけないのは最前線が忙しいからと推測されるので手伝ってこい、と言われています」
『必要ないからまとめて今すぐ国に帰れ!』
笑顔のガリウスの元気な回答に不機嫌を極めたような様子で怒鳴ると鴉は煙のように消えてしまう。
「……なんか、漆黒がすみません」
「いえ、子猫に威嚇されたような可愛らしさを感じました」
突然怒鳴った漆黒に煩いな、とばかりに片耳を塞いでいたライムがガリウスに頭を下げるが当のガリウスは特に気にした風もなくむしろちょっと嬉しそうな笑顔で応え、ますますお会いしたくなりました。と言って元気な足取りで患者の仕分けに戻って行く。
「……殲滅出来るなら、最初からやってくれればいいのに」
ガリウスの背中を見送ったライムは鴉が消える瞬間に囁くような声で紡がれた『その辺一帯の魔物の殲滅はしておくから帰りなさい』と言う漆黒の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしてここに居ないかつての仲間へ文句を述べたのだった。




