◆フロッティーナハイル、王城最寄りの教会②
「傷の軽い者から対処します。
傷が治り次第、手伝いに回ってください。
騎士団の皆様は申し訳ないですが怪我人をトリアージしてください
病人が居る可能性がありますので口元を覆うこと、目をかかないことを忘れないでください」
感動の涙からしばらく戻って来なさそうな2人に涙ぐむナツや良かったね、と喜ぶセンは役に立たないなと判断したライムがふぅ、と小さくため息をついてから仕事しますか、とガリウス達へ指示を出す。
その傍ら、視線だけで建物の凡その範囲を割り出し、静かに魔力を練り上げ杖に集束させていく。
「"星の囁き、風の呟き、大地の眠り《浄化》"」
最低限の隙間のような通路を歩き建物の中央へ進んだライムの掲げた青い宝玉を戴く銀の長杖から放たれた高精度の魔力が天井へぶつかり、広がり弾けて天井から床へ、黄金の光の雪のようにふわりと舞い降りる。
まるで神の奇跡の体現のような美しい魔法に作業をしていた【黎明の黒翼】のパーティメンバーも、痛みに呻いていた患者も、泣きあっていた王女達も皆が全てを忘れたように息すらせずにその光景に見入っていた。
汚れのない真っ白なローブに身を包み、大きなつばが広がる円錐の帽子を被った白魔女がまるで神の御使いであるような神々しさをもって注目を集める。
「手を止めないでください」
ぶっきらぼうなライムの言葉に直ぐに我に返ったのはリーダーのガリウス。
次いでサブリーダーのリナリア、ガリウスの従騎士のイリアが我に返り、それに釣られるように次々に我に返った【黎明の黒翼】のメンバーが直ぐに患者の治療区分を再開する。
区分が終わるまでに少しでも回復しようとライムはその場で目を閉じ、立ったまま瞑想を開始する。
「月白様、軽傷者の移動、完了致しました!」
まず先に手足の骨折などの比較的軽傷者を1箇所に集め終わったガリウスの声に瞳を開けたライムが再度動き出す。
移動しながら精錬される魔力の気配を感じたガリウスがすれ違いざまに目を見開くが直ぐに頭を振って重傷者の移動とその指示を開始する。
「……骨折、裂傷が殆どですね。
"流るる太河、地を這う龍、汝は流れるもの"《回復》」
患者の状態を簡単に確認したライムが再び杖を掲げると薄く柔らかな光の膜が患者達を包み込み弾けた後には手足が動くようになった者や痛みの裂傷の痛みの消えた者が次々に立ち上がり、歓喜の声を上げては隣の者と抱き合い、或いは伏してライムへ感謝の意を全身で表現し、またあるものは膝をついて深く頭を垂れた。
「元気になったなら物資の分配、手伝ってください、人手が足りません」
素っ気なく伝えたライムがすぐに次の患者へ向かう中すれ違う人々からの感謝の声に仕方ないな、と言うような顔でほんの少しだけ微笑んだ。




