◆フロッティーナハイル④
翌朝、目を覚ましたナツ達はにわかに城内が騒がしいことに気が付く。
「……こういう時、フットワークが軽くて助かりますね」
んんー、と伸びをしたライムが騒ぎに心当たりがあるようで大きく欠伸をしてから顔を洗い、トレードマークの三角帽子を目深に被る。
「勇者ナツ、あなたの嘆願が届いたようですから、見に行きましょう」
昨日のどうにかならないかと言うナツの嘆願の結果だと告げるライムに困惑気味のナツがそれでも手早く顔を洗うとすぐに廊下へ出たライムを追いかける。
長く複雑な廊下を迷うこと無く歩いていくライムを追いかけたナツが一際騒がしい玄関ホールが見える通路から階下を見下ろすとダンスパーティーが開ける程の広さを持つ玄関ホールには、所狭しと無数の木箱と雑多に積まれた根菜や穀物が人の背丈よりも遥かに堆く積まれていた。
「……月白様!勇者様!」
玄関ホールへ繋がる中央の大階段を降りる途中の階段でそれらの荷物を城に残っていた使用人達に片付けさせていたサン王女がライムとナツに気がついて振り返る。
その顔に初めに会った時のような今にもはち切れそうな程に張り詰め、緊張に満ちた笑顔ではなく
心の底から安堵したような希望に満ちたサン王女本来の性格が分かる弾けるような笑顔で2人を呼び、階段を駆け上がる。
一国を与る王女としては品のない行動だが今は誰もそれを咎める者はいない。
「ありがとうございます、勇者様と月白様が働きかけて下さったおかげで飢える民を餓死の運命から長らえさせることが出来ます。
なんとお礼申し上げれば良いのか分かりませんが、感謝してもしきれません」
胸に手を当てて深く膝を折って頭を垂れるサン王女に何が起こったか呑み込めていないナツがオロオロする横で静かに微笑んだライムも膝を折り頭をあげるように促す。
通常であれば王女が民の前で頭を下げるなどあってはならないのだ、これがどういう結果を招きやすいか分からないナツとライムでは無い。
「我々は人類の希望である勇者の希望を叶える為に動いたに過ぎません。
勇者様は慈悲深く、あまねく傷つく人々に心を痛めておいでです。
少しでも希望となったならば勇者様、我々勇者一行としても大変嬉しく思います、サン王女殿下」
上品な笑顔を浮かべてサン王女に相対するライムに視線だけで同意を求められたナツはよく分からないまま首を縦に振る事で同意を示す。
そんなナツとライムを見たサン王女が再びありがとうございます、と頭を下げる。
「結界の準備にも時間が掛かりますし、ここを片付けるにも時間がかかるでしょう。
本日は私も勇者様と共に怪我人や病人の皆様の慰問を行います、サン王女もご一緒にいかがですか?」
「……そうですね、政務をしろと怒られそうですが、ぜひお伴させてくださいませ」
ライムの提案に少しの間考える素振りを見せたサン王女は1度目を強く閉じると意を決したように真っ直ぐにライムへ頷いて応えた。




