◆フルール連合国⑩
「ただいまー!」
「おかえりなさい、首尾は……これは素晴らしい戦果ですね」
元気に戻ってきたナツ達を出迎えたガリウスはナツ達が持ち帰ってきた十分すぎる戦果に目を見開いて手放しに褒め讃えた。
そう、食料調達は結果で言えば大成功だった。
ナツとキーがそれぞれ鹿と猪を1頭ずつ担ぎ、キーは食べられる木の芽や野草を抱え、ゐぬは鳥の卵を複数個布に包んで抱え、ライムは帽子に入り切らないほどの果物を抱えて戻ってきたのだ。
土地勘も十分な狩猟道具もなしにこの戦果は素晴らしい、という評価以外ないはずなのに、はしゃいでいるのはセンとナツだけで、キーはぐったりした表情を浮かべ、ゐぬは青ざめ、ライムは不機嫌を極めた三者三様の表情を浮かべていた。
「……どうかされましたか?」
ライム達の様子に部下へ獲物の解体の指導の指示を出したガリウスがこっそりと小声でライムに話しかける。
「どうしたもこうしたもありませんよ。
全部、漆黒の差し金ですよ」
「鹿と猪はこっちに向かって走ってきたから勇者が掴んでね、こう、ぶんって木に投げて動きが止まった所でキーちゃんがボウガンで仕留めたんだよ!」
眉間に皺を寄せて唸るように答えるライムに一体どういうことだろうか、と言うように続きを促そうとしたガリウスの目にもはしゃぎながら報告する声が聞こえると、自分が聞いた事が聞き間違いだろうか、と間抜けな声が口から零れる。
「森の中の食べれる植物はみんなうっすら光ってるし、毒がある植物は触ろうとしたら燃えたんだよ!」
「え?」
もちろん、通常はそんなことは無い。
ガリウスを筆頭に随行していた騎士団のメンバーの表情が揃って困惑の表情を浮かべる。
鹿と猪が突っ込んできた、は確率としては0では無いだろう。
鹿はたまたま通り掛かったか、何かに追われて逃げていたかで遭遇することもあるだろう。
猪だって子育て中や縄張りに入り込めば襲ってくることもある。
1回の猟で遭遇する確率がかなり低くとも動物が突っ込んでくることがない訳では無い。
だからまだ、動物に関しては運が良かったのだろうで片付く。
その突っ込んできた動物を素手で掴んで投げるような事が普通できるかと言われたら疑問だが騎士団でも格闘技などの体術に優れているものならばできなくは無いだろう。
だが、植物は光らないし燃えない。
可燃物質を多く含んで燃えやすい植物ならあるし、火事で焼けた土地でしか芽吹かない植物もあるが、勝手に燃えたり単体だけ光ったりはしない。
「ジル、ソマリ!スマンが森の様子を見てきてくれ!」
どういうこと?と言うようにお互いに顔を見合せる騎士達にこの森の特異かもしれない、と思い至ったガリウスの指示が飛び出す。
すぐに反応したジルとその従騎士ソマリの2人は繋いでいた馬に裸馬のまま器用に乗りそのまま森へ走らせる。
「無駄だと思いますよ」
ライムの疲れたような重苦しい溜息とともに吐き出された言葉にガリウスは詳しく説明いただけますか?と訪ねるとより疲れたような溜息を吐いてこう告げた。
「ここは、もう漆黒の国なんですよ……」




