◆フルール連合国⑧
破壊されてガタガタになった街道に、時折現れる魔物、盗賊のような集団にライムの顔がだんだん険しくなっていく。
「漆黒は何してるんですか……」
苛立ちの矛先はここ一帯の守護の任に着いているはずの顔見知りへと向いていく。
馬車の中では馬車の旅に慣れてきたのかナツやセンの楽しそうな声が漏れ聞こえてきている。
馬車の中と上との雰囲気の温度差に周囲を警戒しているガリウス達が僅かに苦笑する。
「……またです」
真っ黒な影を立体化させたような魔狼の群れにライムがため息混じりに立ち上がり、ガリウス達も剣を引き抜く。
アォオオオオン―ッ
ウォォオオオンーッ
狼の群れから空気を揺らし、圧力すら感じるほどの遠吠えが響くと更に奥から答えるような少し低い遠吠えが響きそれを聞くと魔狼達は軽やかに身を翻し一度も攻撃態勢を整えたライム達を振り返ることもなく一目散に走り去っていく。
「……な、なんだったんでしょう、今の……」
「魔王軍の斥候、と考えるべきでしょうか……逃がすべきではありませんでしたね」
呆然とつぶやくガリウスにライムが疲れきったようなため息をついて額を抑える。
「ライムー、ちょっと休憩にしない?
勇者、もう、腰が……」
そんな空気振り払うように馬車から顔を出したナツが困ったような表情で休憩を求めるとナツを見てからガリウスを見たライムと目が合ったガリウスは小さく苦笑して、休憩しましょうか。と頷いて応える。
「馬に水も飲ませないと行けませんしね、そこの森の入口で休憩にしましょう。
そこから1番近い街か村……なければその跡地などの夜の休息場所について相談しなければなりませんし」
「近くには、フロッティーナハイルが統治する村があると思いますが、今も機能して居るかは……」
「雨風が凌げる程度の機能が残っている場所なら1晩の宿とするくらい問題ないでしょう」
休憩中に打ち合わせをしてしまおう、とするライムにナツ達の身分を察しているらしいガリウスの心配をよそにライムが遠征なら雨風が凌げる場所が無いこともザラです。と肩を竦めて応える。
戦闘においてはナツやセン達を過保護に守っているような雰囲気があったライムの雑な対応にガリウスがそうですね、と同意を示しながら苦笑いを浮かべて乾いた笑いをこぼした。
「森に着いたら打ち合わせ前に火を起こすための薪をお願いしてもいいですか?
私の方は食べられそうな野草や、動物が居ないか探してきますので」
「おや、宜しいのですか?」
「勇者ナツに野草の勉強をさせないといけませんから」
カラカラと進む馬車の上のライムから向けられた提案に目を開き人数が多い方が食料確保に向かった方が良いのでは?と口外に確認するガリウスに肩を竦めたライムが事情があるんです。と返した。