◆ガリウスの回顧⑤
「終わりましたか、漆黒?」
「んー、たぶん?」
こんなもんかな、と言いたげに杖から魔法を放ち切った災禍の煉獄姫が額に手をかざしながら前方を眺めるその姿にちょうど我々の上空に杖に乗った髪も服も白い魔法使いと槍に乗ったオレンジの髪をなびかせた露出の多い魔法使いが上空から現れるとそのまま空中で停止して災禍の煉獄姫に問いかける。
その2人には目もくれずにじっと地平線の彼方へ目を向け続ける。
「全く、こんな派手に戦術魔法をぼかぼか打ち込んで……誰が魔力汚染の処理すると思ってるんですか」
「さすがの僕も琥珀が居なきゃこんなに派手に魔法を使いっぱなしにしないわよ」
不満気なオレンジの髪と腰巻を靡かせる琥珀呼ばれた少女に災禍の煉獄姫が肩を竦めて応える。
「ッ!?」
「漆黒、無事ですか!」
「平気よ。
月白、琥珀そっちは頼むわね」
次の瞬間に飛来した黒い魔法の砲弾を防御魔法である防壁で防いだ月白と琥珀と呼ばれた魔法使い達とは異なり明らかに攻撃魔法をぶつけて相殺した災禍の煉獄姫が血液を塗り固めたような禍々しい色味の大鎌を片手に掴むと2人が止める声も聞かずに炸裂した魔法で作られた煙幕から弾丸の如く飛び出し、黒龍のごとき黒翼で空気を切り裂いて翔ていく。
まるで目標が見えているかのような迷いのない速度でかけていく姿が遠くなる。
その視線の先で魔法戦でもしているらしい禍々しい夜よりも暗い闇と太陽の如く周囲を照らす炎がぶつかり合い爆ぜ飛び、そして大地を揺らして離れているここまで空気を揺らす。
あれが、至上とされる冒険者の実力なのか。と武器を握る手に力が籠る。
たまにこちらに飛んでくる魔法も月白と琥珀の2人に即座に対処されて夜闇に溶けて消えていく。
隣で興奮して瞳孔ひらきっぱなしになっている同期が月白と琥珀の2人も金剛級だとかさっき言ってたな。と思いその実力に静かに唾を飲み込む。
「すげぇ、すげぇよ。
あぁ、出来れば漆黒ちゃんの戦闘をもっと近くで拝みたかった」
隣の同期が荒い呼吸で呟いているのでそうだな、と同意しつつちょっと怖いので半歩ほど距離を空ける。
体感にして1時間ほどそのまま戦いを見守っていたと思う。
空が白んできた頃に音も光も全てが消え失せて静寂が世界を支配する。
「あ……っ!」
誰がこぼした声かは分からないが白んだ空を背に黒翼を大きく広げ先端に見たことも無いような大きさの紅玉を戴く太陽を模した黄金の杖を携えた災禍の煉獄姫がその長い髪をふわりと靡かせこちらに戻ってくる。
こちらにいた時とは異なる背中の大きく開いた黒いドレスは舞踏会の令嬢のようであり、朝日を連れてきた夜明けの女神或いは神が遣わした戦乙女と言われても信じそうな神々しさを纏って広げた翼を羽ばたかせて上空の月白と琥珀に合流して上空で小さく何言か交わしたあとこちらを見下ろした災禍の煉獄姫が口を開いた。
「魔物の大侵攻は去ったわ!
僕達の勝利よ!」
その勝利宣言にその場にいた騎士団から地鳴りのような歓喜の声が響き渡った。




