◆ガリウスの回顧④
やがて高い位置に咲いた血を塗り固めたような深紅の薔薇の上にそこが玉座であるかのように腰掛け災禍の煉獄姫の名を冠する魔法使いが足を組み退屈そうに頬杖をついて暴虐の宴を見下ろす。
一方的な虐殺劇を生み出し退屈そうなな見下ろすその様は姫、と言うよりは女王、と行った方が相応しいとすら思った。
「"励起せよ、咆哮せよ"」
気怠げに掲げた手に握った金の杖の先で漆黒の薔薇が花開き仄かに輝く黄金の花粉を撒き散らすように溢れる魔力が零れ落ち災禍の煉獄姫の姿を浮かび上がらせる。
鈴を転がすような少女の幼さの残る甲高い声がゆっくりとした口調で歌うように呪文を紡いでいく。
編まれた魔力が子供の拳サイズの白く輝く玉のようにバラの花弁の上で輝く。
「"汝は破壊の化身"」
次に紡がれた言葉によって生み出されたのは血を塗り固めたような先程の白い玉と同じくらいの大きさの禍々しい赤い玉。
まるで胎動しているかのように震えて脈打つ。
生まれるのを待つ災いの火種のようであり、災禍の煉獄姫の足元で繰り広げられ続け終わらない悪夢のような惨劇に歓喜しているようにも見える。
「"我がゆく道を手繰りて焼き滅ぼさん"」
次に生み出されたのは光も何もかもを飲み込むような闇よりもさらに暗い黒。
ぼんやりと輝いていたふたつの光の輝きすら飲み込む黒が静かに浮かび、何かを期待するように掲げられた杖の周囲を3つの玉がぐるぐると回り始める。
「《天の火》」
3つの玉が回り、絡まり、溶け合いひとつになり形容し難い混沌の塊へと変じると小さく圧縮されこちらからは点にしか見えない程に圧縮されたものが不気味に停止する杖の先を最初に比べればかなり静かになったものの未だに土煙を上げる魔物の集団へ指し示すと音もなく魔力の塊がボールでも投げたような軽やかさで弧を描いて夜空を駆け抜けて集団の中心へ落ちる。
一瞬何も無かったような沈黙が周囲を支配したあと、暴力的な閃光を伴って炸裂した。
閃光から少し遅れて凄まじい爆音が響き渡り空気を震わせ、立っていられないほどの暴風が吹き荒れまともに暴風を食らった騎士団員の大半が無様に地面を転がり、咄嗟に身をかがめる事が出来た者も踏ん張りきれずに後方へ押し下げられる。
地面に突き刺すことが出来た騎士団長と副団長も剣に捕まって踏ん張っているがかなり辛そうなのが視界の端に見えた。
顔を上げるとこんな暴風を起こした本人は追撃を喰らわせようと再度杖を掲げて魔力を練り上げていた。
「"焼け"」
次に紡がれた言葉は呪文でもなければ魔法名ですらなかった。
杖によって方向性を指し示された魔力は一直線に駆け抜け見える範囲まで真っ直ぐに焼き払う。
炎があらゆる障害物を無視して昔魔道具師が作っていた魔導大砲によるレーザー攻撃のようだと思った。
もちろんこれはその時に見た光景など生温い規模と威力だが。
そのまま災禍の煉獄姫が杖を横へ払うとまるで鞭のように魔力がしなり、動きに追従して先程の《天の火》で打ち漏らした生き残りも何もかもを無慈悲に焼き払う。
炎耐性のある者もいたはずだろうに、災禍の煉獄姫に焼き払われた大地には草の1本も残らずに灰へ変じる。
「これが、災禍の煉獄姫の力……」
圧倒的な力にもっと近くでみたいと無意識に足が進み結界のギリギリに立って目を凝らしていた。




