◆静かの森⑤
あけました、おめでとうございます!
『初めまして、勇者の雛。
僕は災厄の名を戴く者。
人は僕の事を天災やら災禍、煉獄、まぁ割と好き勝手に呼んでるわ。
だから、君も僕のことは好きなように呼んでちょうだい。
僕は呼ばれ方に頓着なんてしないから』
ようやく落ち着いた黒衣の少女がふぅ。とため息をついたあとフリルやレースをふんだんに使った豪奢な黒衣の裾をつまんで優雅にお辞儀して見せた少女の自己紹介にナツがあわあわと立ち上がる。
「天才って呼ばれてるの!?凄いね!!
勇者に選ばれました、ナツです!
よろしくね、えっと……名前聞いてもいい?」
『名前は魔法使いの命だよ、勇者の雛。
だからみんな本名でない名前で呼ぶのよ。』
姿勢を正して元気に自己紹介をしたナツが勘違いをして天才ちゃんじゃ呼びにくいよぅ。と零すのを間違いを訂正する気などサラサラなさそうな黒衣の少女は軽くあしらうようにして口を割らない。
「紛争地帯へ任命された時に左遷だわ、って騒いでたのが懐かしいですね、純黒。」
『まだ任が解かれてないし、未だに思ってるわよ、月白』
苦笑するライムに顔を顰めた純黒と呼ばれた少女がライムを月白と呼びながら肩を竦めため息をついて答える。
ライムの話では遠くの任地にいるらしい。
「で、このデタラメな魔法を残してたってことはこの変異を分かっていたんですよね?
なんで放置してたんですか?」
『なんでって、雛への試練だよ?
いづれ魔王を超えてもらうわけだからね。
これくらいでどうこうなってもらっては困るんだけど……ちょっと手を貸すくらいじゃダメそうね。
もう、ダメダメな気配を感じるわ。
本当にこれ勇者なの?雛にしたって酷すぎない?一般兵の方がまだ使えるってくらい酷いね!』
埒が明かないとばかりに空気を切りかえたライムが真顔で純黒と呼んだ少女に詰め寄る。
そのライムの質問がなんでわざわざ聞くの?と言いだけな顔で応えた少女はんー、としばらくナツの方を見つめたあと困ったね!といっそ明るい声で笑顔でダメ出しをする。
「え、私って、そんなに酷いの……?」
『武器なし、戦闘経験なし、訓練経験もなし
筋力はその年齢の女子と考えれすごいけど成人男性平均程度で瞬発性は無し!
耐久力も一般人に毛が生えた程度でタンクにしても貧弱!
これが酷くなくてなんなのかしら!』
恐る恐ると言った様子で伺うナツに純黒と呼ばれた少女はにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべて容赦のないダメ出しをする。
武器なし、と言われたナツは武器ならこれが……!と実家から持ってきたはずの大剣を出そうとして先程魔獣に襲われた時に地面に突き刺したまま忘れた事を思い出して、膝から崩れ落ちる。
「私、すっごい役立たずじゃないか」
『大丈夫大丈夫、この僕が手伝ってあげるし
何より月白がいるからね!
あの程度の魔獣なら問題ないよ』
絶望するナツに純黒と呼ばれた少女は何も問題ないよ、とカラカラと笑ってみせる。
ほんと?と顔を上げたナツの横で戦力に加えられたライムが心底嫌そうな顔をうかべる。
「純黒、あなたまさかとは思いますが……」
『戦うのは僕じゃなくてあくまでそこの雛だよ。
僕は手を貸すだけ。
僕が戦ったらあんなの秒で消し炭よ』
ライムの唸るような声にナツを指さした純黒がクスクスと可笑しそうに笑って答える。
魔法結界内だと言うのに不自然に吹いた風にその姿が揺らぐとそのまま光が弾けるように姿を消した。
後には湖と柔らかい草だけが風に揺れていた。
見回して探しても花も少女も見当たらない。
「手伝ってくれるんじゃなかったのーっ!?」
代わりに姿を現した先程の黒い魔獣にライムが無言で前に1歩踏み出し、ナツの悲鳴のような絶叫が辺りにこだました。
あけましておめでとうございます。
書き初めはこちらの作品になりました!
今年も無理のない範囲で作品を進めていきたいと思いますので皆様も楽しんでいってくださればと思います!
本年もよろしくお願いします!