◆ガリウスの回顧
「なぁ、聞いたか?」
「最大規模の魔物の大侵攻が来るって話か?」
「あぁ、なんでもその規模の魔物の大侵攻で過去に滅んだ国もあるらしい」
「だからどうした。
手足がもげても、命ある限り人々の為に1匹でも多くの魔物を殺し、死ぬとしても出来る限りの魔物を道連れにする、死の不安に怯えていいのは力を持たぬ民だけ……そうだろう?」
野営の準備をしながら声をかけてきた同僚に肩を竦めて応えると呆れたような顔で手が震えて荷物縛れてない奴に言われてもな、と返される。
仕方ないだろう、死に怯えるのは本能のような物だ。
普段の訓練で死を感じる事は少ない。
新兵が魔物と戦うとしても複数対1と言ったように多少の恐怖はあるが自分が死ぬかもしれないと言う危機感が凄く強く感じられる訳では無い。
むしろ集団ハイ状態なので怖かった、と事後で感じる事の方が多いくらいだ。
けれど今回は魔物の方が多い。
正騎士も従騎士も遠征に出ていたものまで呼び戻され師団クラスがゴロゴロいるのにその彼らから滲む緊張と恐怖がろくな実践経験もなく数合わせのように連れ出された新兵に怯えるな、と言うのは無理な話だと考えて小さく鼻で笑う。
「お、いたいた。
団長が集合の号令を出てたぞ、急げ」
「はい!」
先輩の声で立ち上がり駆け足に集合場所へ向かう。
士気を高める為の演説だろうか、と思い駆けつけた集合場所では既に大多数の騎士が集まり隊ごとに整列していた。
俺たち新兵は後方に集まっていたのでそこに加わる。
「よぉ、おつかれ」
「サンキュ、これはこれで壮観だな」
「お祝いじゃなければ一生見たくねぇ光景だけどな」
顔見知りの同期に片手を上げて応じ、白いマントを風にはためかせるこの国の精鋭達に目を向けると擦れた同期は溜息混じりに肩を竦める。
「全員揃ったな」
それはそう。と返そうとしたところで演説台に現れた裏地の深紅のマントに白銀の甲冑を光に夕日に輝かせる赤い髪の美丈夫、我が国の騎士団団長が姿を現す。
その少し後ろに深い青色の裏地のマントに白銀の甲冑を輝かせ、白金の髪を靡かせた優男、我が国の騎士団副団長が並ぶ。
団長の声に並んだ騎士団の空気が弓を引き絞ったように引き締まる。
「諸君!我々はこれから史上最大規模の困難に立ち向かう事になる!
これから日が沈み奴らの時間となる。
本格的な作戦決行は明朝、日の出と共に……」
団長の声が響く度に静かに確かに空気が熱を持っていく。
そういう魔法でも使っているのだろうか、と考えてしまう程に団長の言葉に、空気に呑まれて焚き付けられて身体が、心が高揚していくのを感じる。
「……はぁ……疲れた。
大変盛り上がっているところ申し訳ないけどその必要は無いよ」
その空気をぶち壊すように騎士団長の背後、長く伸びた影からふわりと浮き出たとしか言いようがない程に突然現れた少女が溜息の後
勝気、とも言える声色をこちらまで届かせてきた。
団長ですら声を張り上げていた距離を、まるで目の前で喋っているかのようにごく自然な声量で。




