◆フルール連合国④
『月白、貴女何しに来てるの?
貴女は王族が配した勇者の護衛でしょ?
王家のパフォーマンスに命かけるなんてバカなんじゃないかしら?』
「パフォーマンスって……、当の本人に魔王討伐の気概が有りますし……それに、」
『あのねぇ、皇族の一人娘が本気で魔王討伐を期待されているわけないじゃない。
1番戦線から遠いあの国が魔王討伐の為に聖女の血を引く一人娘を勇者として前線に送ったって言うポーズが欲しいだけなんだから』
朝早くに瞑想をしていたライムの傍らに降り立った烏の口からは溜息混じりの少女らしい声がまるで非難するように紡がれるが、ライムの方は眉間に皺を寄せて応対する。
その態度に鴉の方は大袈裟に羽で頭を抱える。
『いい?貴女の役目は人類の住む土地の防御よ。
攻め込む剣は他にある、でもそれはぬくぬくと暮らしてきたお姫様じゃないわ、貴女だってわかってるでしょう?』
「だから、貴女を誘いに来たんじゃないですか」
『僕だってここの土地の人間を護れって命令があるわ。
もっとも殆どは逃げ出して、あとはこの土地以外に伝手も、勇気も無い老害とそれに付き合わされている家族くらいだけれどね』
暗に帰れ。と言う鴉にライムが反論するが直ぐに鴉の方が肩を竦めて否定する。
『彼らが死に絶えるか、出ていったら反撃に動くわ。
魔王討伐なんて僕一人で十分よ』
「……漆黒、貴女がいくら強くとも数の暴力には必ず膝をつくことになります。
剣と盾は共にあるから強いのです、貴女の方こそわかっているでしょう?」
目を細める鴉にライムは今度こそ呆れたように額に手を当ててため息をついた。
『月白、貴女こそ忘れてないかしら?
僕は多対1でこそ真価を発揮できる魔法使いなのよ?
仲間なんて……足でまといでしかないわ』
「漆黒……それ、琥珀に向かって言えますか……?」
『そこで琥珀を持ち出すのは性格悪くないかしら?
確かに琥珀が居ないと使えない魔法はあるわ、でも琥珀の補助は必須では無い、やり方はいくらでもあるわ』
ふふん、とドヤ顔をしてみせる鴉にジト目を向けたライムの言葉にゲエッと言いたげな態度を見せた鴉の口から言い訳のような言葉が紡がれていく。
「魔王討伐部隊任命権」
『なんですって……?』
ボソッと呟いたライムの言葉に鴉が胡乱げに顔を顰めるような仕草をする。
「勇者による魔王討伐任務を人類最高任務として制定。
現勇者ナツ·ヴァルトブルクの要請を断る事を原則として禁ずる、と言う強権が裁決されました。
要請があった場合には速やかに現状業務の引き継ぎ等現状維持の処置を行いナツ·ヴァルトブルクの隊列に合流すると言う旨の討伐任務の優先権ですよ」
『あのクソジジイども、ほんとろくでもないことばっかり検討せずに排出しやがって。
魔王討伐のどさくさで縊り殺してやろうかしら』
ライムの説明に舌打ちした鴉が今にも地団駄を踏みかねない様子でいらだちを示すのを見たライムが
この際、膿出しもしてしまったらいいかもしれませんね。と割と適当に同意を示す。
「なので、初めから貴女に断る権利はありませんよ、漆黒」
『しれっと手を回したわね、月白!』
にっこりと笑うライムに貴族達に働き掛けたのはライムだと察したらしい声がキィィッと言いたげに声を上げ、鴉が悔しそうにダンダン、と地団駄を踏む。
「さぁ、なんの事でしょう?
大人しく仲間に加わってくださいね、漆黒?」
『絶対にお断りよッ!』
すっとぼけるライムの勝ちを確信したような得意げな声音に許さなくってよ。と言わんばかりに叩き付けるように声を上げたのを最後に鴉が空気に溶けて消える。
「おはよう、ライム。
誰と話してたの?」
「漆黒ですよ。
朝一番に使い魔を飛ばして来て騒ぐだけ騒いで行きました」
テントから出てきたナツからかけられた声に振り返ったライムがおはようございます。と頭を下げてからナツの質問に答える。
そんなライムの言葉にそっかー、と笑ったナツが友達が来てくれて嬉しいのかな。と笑えばその逆ですね。と爽やかなライムの笑顔が返ってきた。




