◆リーファス家の屋敷にて③
ライムは朝早くから夜遅くまで調査に繰り出し、食事で顔を合わせる事も少ないことが数日続き、ナツ達は存分に休暇をゲームに費やし本来の旅の目的を忘れかけていた。
「思っていたより調査が長引いてしまい遅くなってしまいましたが、出立の目処が立ちました。
3日後に出立しますので準備をしておいて下さい」
朝食後の紅茶を飲みながら今日はどのゲームをして遊ぼうかと顔を見合せて相談しようかとナツ達が口を開く前に朝の騎士団との会議を終わらせたライムが食堂の扉を開け、ナツ達の姿を確認すると同時にそう口を開いた。
「ライムちゃんおつかれ様。
3日後にってことは騎士団の人達は調査結果がもう出てあとは報告書まとめて移動準備って感じになるの?」
前置きなどないライムの報告にとくに動じた様子もなく視線を上げたセンがへらりと笑って軽く手を上げて応じてから首を傾げる。
そんなセンにまぁ、そんな所です。とライムが頷いて答える。
「調査結果って何かわかったの?」
「……今回の騒動は正式に魔物の大侵攻であると判断されました。
発生源は魔王領、詳細は不明。
残留魔力より煽動主を魔族と選定。
魔力パターンに過去の識別登録なし、目撃情報より煽動主の仮称、不死者の女王による魔物の大侵攻であると報告を受けました」
キョトンと首を傾げて訊ねるナツに言いたくなさそうに眉間に皺を寄せたものの仕える国の王族の言葉に逆らえないとため息をついたライムが調査結果を端的に報告する。
淡々とした報告を聞いていたセンとキーはなるほど。と頷くがナツだけはつまりどういうこと?と首を傾げた。
「……簡単に言うと今回の事件は魔王領より出現した魔族による人間領への大規模侵攻だった、と言うことになったという事です」
「不死者の女王が煽動主ってのは目撃情報だけで推定できるものなんです?」
ライムの報告を黙って聞いていたゐぬが確認するように声を出すとライムが今回は特別です、と肩をすくめる。
「不死者の女王に関しては見た目がかなり特徴的です、魔族に意識革命でも起こらない限りは目撃情報だけでも推定するだけなら可能です。
もっとも、今回は魔力パターンに登録はありませんでしたが他地域でも似たような魔力パターンの検出記録もありましたのでそちらも参照しましたが……」
ゐぬの疑問に適当に検査してるわけじゃないと言うようにライムは小さく肩をすくめる。
そんなゐぬとライムのやり取りに眉間に皺を寄せたナツが難しいことは分からないよ、と呻くような声を漏らす。
「この間の魔物の襲撃事件は不死者の女王っていう悪い魔族がやったって事だよ。」
1人だけよくわかっていなさそうなナツを見たセンが苦笑いを浮かべながら簡潔に噛み砕いて説明する。
「なるほど、その悪いやつは捕まったの?」
センの説明でナツがはて、と首を傾げる。
「いえ、ですのでいずれまたどこかで魔物の大侵攻が起こる可能性があります」
ナツの疑問にライムが力無く首を振る。
そのライムの言葉に難しい顔を浮かべたナツが振り払うように首を振ったあと殊更明るい表情を浮かべる。
「じゃあ、今度そのイモなんとかが出てきたら私達で倒さなくっちゃね」
だって私は勇者だから、悪いやつはやっつけなきゃ。と続けるナツに予想してなかったライム達は目を開いてキョトンとした表情を浮かべる。
一瞬部屋に降りた沈黙を破って笑いだしたのは、センだった。
「そうだね、勇者は勇者だし、私達はそのお供の勇者一行だもんね」
「そう、勇者は仲間と悪い事をする魔王と魔族を倒して世界を平和にするってのが王道だからね!」
センの言葉を受けたナツがかっこいい勇者に私はなるよ!と意気込むのを見たライムが重い溜息をつく。
「まずは自衛できるようになってから言ってください。
この休暇中に1ミリも鍛錬していないでしょう……」
また道中に鍛えなきゃ行けませんね。と告げるライムにここに来るまでの道中を思い出したナツが顔を引き攣らせてお、お手柔らかに。と小さく震えた。




