◆静かの森④
風が草を撫でていく音に顔を上げたナツの目に飛び込んできたのは澄んだ水を湛えて柔らかな日差しにキラキラと光を跳ね返す湖。
その周りを囲むようにナツ達の側まで水晶のような青とも紫ともつかない光を煌めかせる足首ほどの高さの蕾が風に揺れていた。
サラサラと涼やかな音を立てる夢のような光景にナツが思わずというように手を伸ばす。
「きれい……」
「っダメです……っ!!」
ナツが手を伸ばしていることに気がついたライムが慌てて制止の声をあげるが既に遅くナツの指先が触れた蕾から順に湖の花が一斉に花を開く。
宝石のような花弁がぼんやりと仄かな輝きを放ち幻想的な光景にナツが惚けたように見つめる中でライムは握り直した杖を手に周囲を見回す。
「魔法結界ですか」
「ライム?」
チッと舌打ちしたライムにナツが驚いたように顔を上げる。
険しい表情にもしかして、私また何かやっちゃった?とナツが恐る恐る尋ねるがライムに見事に無視される。
『そんな警戒しないで?
害を与えるつもりは無いわ』
「ゆ、ゆゆゆ、幽霊っ!!
む、むり、無理無理無理!!無理無理、私、幽霊とか怖いのダメ、こっち来ないで!!
だいたい今真昼間だよ!?幽霊って夜出るものじゃん!!反則だよ!!」
そんなライムを嘲笑うような少女特有の甲高い声が聞こえ、ライムが杖を握って警戒したまま、ナツは無防備にそちらを向けば湖のほとりの花畑の中に黒衣を揺らす半透明の黒髪の少女がクスクスと可笑しそうに笑っている。
向こうが透けている少女に即座に立ち上がり顔面を真っ青にして震えるナツがライムにしがみつきながら勘弁して、と騒いでいる。
「何してるんですか?」
『やだなぁ、助けてあげようって思ってるだけだよ?』
おばけこわいぃぃっ、と騒ぐナツを面倒くさそうに見たライムが拍子抜けした、と言わんばかりの表情で全身を脱力してため息混じりに尋ねれば半透明の少女はゆらゆらと揺れながら変わらずにクスクスと笑っている。
『ねぇ、ライム。
その勇者は、まだ雛でしょう?』
「デタラメな魔法を遺す暇があったならこの変異くらい始末しておいて下さいよ
こういうの相手こそあなたの得意分野でしょう?」
少女の猫のような瞳がナツの本質を暴こうとするかのように真っ直ぐに射抜く。
その視線から守るように半歩前に出たライムが眉間に皺を寄せて文句を述べる。
「もしかして、ライム……このお化けと知り合い?」
「知り合いも何も」
『同級生だよ、魔法学校の』
脱力気味に話すライムにナツが尋ねればため息混じりのライムの言葉を黒衣の少女が引き継ぐ。
「同級生!?
え、でも死んで……?」
「死んでませんよ、殺したって死ななそうな魔法使いですし」
『魔法で投影してるだけだからね。
幽霊ではないよ、今でもないけど』
ナツの素っ頓狂な声にますます深いため息をついたライムと対照的にチェシャ猫のようにニヤニヤとした笑いを浮かべる少女が肩を揺らして笑いながら答える。
「なんだ、幽霊じゃないのか……びっくりしたなぁもうっ!」
幽霊じゃないとわかるとライムから離れてプンスカと頬をふくらませて怒ってみせるナツに黒衣の少女は体を折り曲げて笑いだし、ライムは再度大きくため息をついた。
多分これが今年の書き納めになります!
閲覧してくださってる皆様ありがとうございます!
来年もちまちま更新できるように頑張りますので応援よろしくお願いします!
ではでは皆様、良いお年を!