◆ディアスへの帰路④
「どうにか、って……どうするつもりですか?」
何を考えたんだ、と言わんばかりの顔で訊ねるライムにセンがよく聞いてくれました!と言わんばかりの表情で勢いよく口を開く。
「貴様らは全員前線送りだ」
センの言葉にナツがいちばん絶望の表情を浮かべる。
「なんで!?
それ、どうにもなってないよね!!」
理不尽だと言わんばかりに抗議の声を上げるナツにまぁまぁ、と笑顔のセンが続ける。
「彼らをうちで雇うんだよ。
襲撃した商隊があるならその給与の1割を賠償金に充てる」
「正気ですか?
彼らは元傭兵とはいえ盗賊ですよ。
嘘を述べる可能性もあります。
殺してしまった方が後腐れもありませんよ」
ピン、と指を立てて名案でしょ?と言わんばかりのセンにナツがどういうこと?と言いたげに首を傾げ、その傍のライムは反対だと言うように眉を顰める。
「父上に【真実の瞳】を借りて罪歴を残さず吐いてもらえば賠償漏れはないだろうし嘘もつけない。
一応さっきの言葉を信じるなら彼らは無闇に人殺しをしていない。
今回の襲撃だって被害者が救済を望んだなら慰謝料くらいで済んだっていいと思うんだよ」
ライムの懸念を払うようにちゃんと考えてるよー、とセンが肩を竦める。
「その割に前線送りとか言ってたが?」
救済措置だと言う割りに過激な発言をしていたセンの言葉をキーが拾う。
「うん、うちの私兵になってもらおうと思って。
この前の襲撃でうちも少なくない打撃があったし、あの時に運良く勇者とライムがいたから耐えられた。
でも、勇者とライムについて旅に出ちゃうからこれからは私達も居ない。
今後も同様の襲撃があるなら穴埋めは絶対に必要なんだよ」
「いや、だからって盗賊じゃなくても……」
「なるほど、彼らは魔物の襲撃の際に殿を果たした傭兵団。
人数も居て実力も保証されている。
それに魔王国との泥沼の戦いは確実に人間側の戦力をすり減らしてる現状を考えれば確かに実戦経験のある即戦力の価値は高いと言えますね」
センの説明にわざわざ盗賊を雇う必要はない、と否定的なキーに対してライムが悪くは無いですね、と納得したように頷く。
「確かにこの前の襲撃から穴埋め分と増強分を鍛えようと思ったら途方もない時間とお金がかかりますからね……指揮官が亡くなっていれば指揮のできる人間も育てなくてはいけない。
その点彼らは襲撃を戦い抜いてここまで来てるのですから、実戦経験もリーダーの指揮能力もある程度あるならばすぐに穴埋めは叶います。
彼らに指導してもらえば増強への時間短縮にもなりますね……我らの国でもいずれは導入を検討するように女王陛下に進言するのもありですね……いや、セン殿のご慧眼、まことに恐れ入ります」
ふむ、と考える素振りを見せたガリウスが胸に手を当ててそれに倣った騎士団員全員がセンを称えるように頭を下げる。
「……即戦力として雇うのは目的地に着いてからでもいいですけど、食料とかはどうするつもりです?」
ずっと黙って成り行きを見守っていたゐぬが現実問題があるぞと言わんばかりに口を開く。
「お前達、何人いるのですか?」
ゐぬの問題提起に残りの日程と搭載している荷物を頭に思い浮かべたライムが詰問するように訊ねる。
「……家族を含めて全部で80人だ」
ライムの質問に答える元傭兵達は即戦力を求められているから戦えない避難民でもある自分達の家族は見捨てられてしまうのではないかと不安そうな顔を浮かべる。
その様子に見捨てませんよ、と溜息をついたライムが目を閉じて在庫と行程を試算する。
「狩りをして3日と言った所でしょうか……もちろん1人あたりの食べる量は少なく満足な食事とはいかないと思いますが」
ライムの試算にガリウスも同意するように頷きながらもちろん全日十分な獲物が取れること前提の話になりますが。と付け足す。
「兵士として取り立てるならば戦える者だけ連れていくのもありですが、どうしますか?」
一応立場が1番高いナツと発案者でもあるセンに向けてライムが確認するように声をかければ食材に関しては考えてなかったぞ。という顔のセンと自分のわがままで他の人に我慢を強いる事になるのかと苦悶の表情を浮かべるナツが困ったように顔を見合わせる。
「我々は騎士訓練の一環として1ヶ月くらい補給無しの行軍等もありますから数日の断食には慣れてますよ。
それに彼らは魔物の襲撃を退けたにも関わらず人に裏切れ、果ての無い飢えの恐怖に晒され
心身共に傷付いた者達です。
自らよりも弱いものを優先し、護るのは騎士の本懐
我々の事を気にしていただいているのでしたら気にしなくて大丈夫です」
悩む若い少女達を微笑ましそうに見つめたガリウスが助け船のように告げれば【黎明の黒翼】のメンバー達も同意を示すように笑顔で頷いてみせる。
「まぁ、私も動かなければさほど食事も必要ないですし?」
「……っ、就職先が確約されて働きに対する報酬が貰えるなら我慢が数日伸びる程度だ。
自分達の分は自分達でどうにかする、連れていってくれるだけでいい」
馬車から顔だけ出して行く末を見ていたゐぬもここで見捨てるのは寝覚めが悪い、と言いたげな顔で肩を竦める。
そんな面々の顔を信じられないと言うように見回す元傭兵達。
俯いて肩を震わせる元傭兵達のリーダーは呻くように言葉を紡いだあと潤んだ瞳で周囲を見回したあと俯いてありがとう。と小さく呟いた。




