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Gaillardia・Coral   作者: 海花
森の国
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◆ディアスへの帰路②

剣の動きの修正の前に他の騎士達と共に柔軟と素振りを行ったナツはそれだけで普段使わなかった筋肉が悲鳴を上げている。

それでもぷるぷると震えて力の入らない腕で貸与された練習用の剣を握る。

まず防御からとひたすら従騎士の打ち込みを受けるだけなのだがそれでも筋肉が悲鳴を上げる中で受け続けるのは辛く、何度も何度も件を弾き飛ばされては拾い上げ握り直して構える、という事を繰り返している。

手のひらの皮が切れないように適宜ライムが回復魔法を飛ばしているので血豆が出来る、なんてことは無いがそれでも辛いものは辛い。

役に立たなかった事に心の底から悔しさを感じていなければとっくに心が折れていただろう訓練が終わるのは休憩時間の終わりの時。

半分死にながら馬車に戻ったナツはそのまま荷台の床に転がり何もしたくない、と目を閉じる。


「いやぁ、流石にキツそうだな、あれは」


「前衛じゃなくて良かったと心底思ったよ」


馬車の中でカードゲームに興じていたセン、キー、ゐぬは指1本動かせない、という様子のナツに同情的な顔を向けたあと手近にあった毛布をナツにかけて訓練がこちらに向きませんようにと祈りながら再びカードゲームに戻る。


「ところで2人はどうやって戦うんです?」


「私は吊りチキとか砲弾をこのバズーカでドカン」


「私はボウガンで狙撃だな、一応」


「良いなぁ、勇者も飛び道具にメイン武器変えようかな……」


ゐぬの質問に背もたれ代わりにしていたバズーカを指し示したセンと太ももへ装備していた折りたたみ式のボウガンをトントン、と叩いて示す。

その2人へ顔だけ向けたナツがそしたらこんなに鍛えなくて良いのに……、と言うがキーが物言いたげな顔でチラッとセンを見る。


「吊りチキは習性として刷り込みがあるから卵から孵化させた私と私の匂いのするキーなんかは群れの1部として認知されてるし襲われることは無いけど、

帰巣本能があるから打ち出して巨大化した吊りチキの群れに追い回されるからもみくちゃにされたくなければ走り回る必要があるけど……

走り回ってるだけで魔獣くらいなら轢き殺してくれるからお得はお得だよ。

足腰に自信があるなら使ってみる?」


うーん……と唸ったセンがあぐらをかいた足の上に載せ、顎乗せのクッション代わりにしていた真ん丸なフォルムの白い鳥をナツへ差し出す。

しかし、魔物でしかも追いかけ回される、と聞いたナツはちょっと遠い目をしてみんなそれぞれ苦労があるんだね……と深い溜息をついて受け取りを拒否する。


「慣れれば可愛いんだけどね」


「そうか、なら今度から私が後始末を手伝わなくてもいいんだな?」


「嘘です、ごめんなさい普通に怖いので助けてください」


勇者の様子に苦笑いをうかべたセンの言葉を聞いたキーが聞き捨てならないぞとばかりに言葉を投げれば激しく首を振ったキーが助けてね?と念を押す。


「……騒ぐほど元気なのでしたら次の休憩で皆さんも訓練をつけてもらったらどうですか?

基礎体力はあるに越したことはありませんし」


荷台の隅で目を閉じて置物のようにじっとしていたライムが騒ぐメンバーに片目だけ開けてジト目を向け告げれば

訓練は嫌かな!とセンが強ばった顔で即座に切り返す


「まぁ、【黎明の黒翼】が護衛してくれているとはいえ移動中絶対安全とは限りませんし

全員があの勇者のようにくたばってもいけないですし?

私はそもそも正式にパーティメンバーでは無いですし?

……ところでライムさんは何をしてるんです?

先程の彼女の訓練で使ってた回復魔法分の休息です?」


ゐぬもまたライムとナツから微妙に目を逸らして訓練を固辞する。

そして話題を変えよう、とばかりに先程から微動だにしなかったライムの行動について言及する。


「コレですか?

まぁ、休息と言えば休息ですけど、《瞑想》ですよ。

マナの回復にもなりますが、基礎値を上げる訓練でもあります」


「めいそう?あの、胡座で目を閉じてたまに木の枝持った人に殴られる、あれ?」


ライムの説明にセンが聞いたことあるぞ、という顔をする、ナツは瞑想がピンと来なかったのか首を傾げ、キーは寝てたんじゃないのか、という顔を浮かべゐぬはまさか訓練してたのか、という顔をライムに向けた。


「それは独坐……坐禅ですね。

目を閉じて身体のマナを巡らせるのが《瞑想》、宗教修行の一種で決められた姿勢で決められた時間個を捨て他者認識による個を再認識するのが独坐、と聞いています。

正確には違うかもしれませんが、どちらも精神統一の動作ですので親戚同士みたいなものですね」


一緒くたにされては困る、と言いたげな顔のライムに精神統一とか修行か?と言いたげな顔のゐぬが目が合った瞬間に文句でも?と言いたげなライムの凍えるような視線に慌てて目をそらす。


「あの"カァァッツ!"って叫ぶ方、やってみたいよね、あの棒、売ってないかな?」


「その辺のいい感じの枝で一人でやってくれ……

むしろ吊りチキ戻す時にそれで殴りながら叫べば解決だろ」


センの言葉にキーが迷惑だけはかけないでくれ、と言いながらため息をつく。

そんなキーにセンが吊りチキは狙うのが大変じゃん……っ!と抗議の声を上げる。

そんな風景を微笑ましく見ていたナツの視界の隅でハッとしたようなライムが杖を握り締めて立ち上がる。


「止まってください、前方に盗賊です!」


そんなライムの言葉にゐぬはこの過剰戦力に喧嘩売るとか……正気です?と小さく呟きながらまだ見ぬ盗賊へ小さく合掌してみせた。

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