◆交渉①
「騎士の国の【黎明の黒翼】ってマジです?」
騎士の自己紹介を聞いたゐぬがガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。
「そんなにすごいの人達なの?」
キョトンとした顔のナツにすごいとか言う次元ではないです。とゐぬがため息をつくがだからと言ってナツがその凄さを理解した雰囲気はなく、むしろセンとキーもライムも詳しく、という視線をゐぬに向ける。
「……マジで言ってるんです……?
冒険者には下位ランクと上位ランクがあるのは知ってると思いますが……
この【黎明の黒翼】のパーティは登録わずか1年で上位ランクに昇格した新進気鋭、今最も勢いがあり、世界の最強の一角を担ってる凄いパーティですが、知らなかったんです?」
そんなことある?と言いたげにため息をついたゐぬがそれでも簡単に説明するとガリウスが最強だなんて恐れ多いです。と照れ笑いを浮かべる。
「私達なんでまだまだひよっこですよ。
最強と言うならライムさんの方です。
ライムさん達の所属していた【黒月の女王】は伝説のパーティでしたから」
ガリウスの言葉にライムが古い話です。とつまらなさそうに呟く。
「【黒月の女王】って……あの最年少記録ホルダーが所属していたって言うあの一時期話題になった……?」
「魔法使い3人だけのパーティで混沌龍をものの数分で虐殺したっていう噂のある、あのパーティ?」
【黒月の女王】と聞いてセンとキーも信じられない、と言うように顔を見合わせてから確認するように言葉を紡ぐ。
「ある日突然パーティを解散したとは聞いてましたが……ちなみに噂は本当です?」
驚愕の色を浮かべるセンとキーへのライムの言葉を待たずにゐぬが訊ねる。
そんなゐぬを一瞥したライムが小さく笑みを浮かべてみせる。
可愛らしいのにゾッとするような圧を伴う笑みにゐぬが僅かにたじろぐ。
「仮に噂の真偽を応えるとして、一つあたりいくらで買うつもりですか?」
そんなライムの言葉に一瞬険しい顔をしたゐぬがゆっくりと瞬きをする間に考え頭の中で弾いたそろばんから指を2つ立てる。
「単位は?」
「ガロン」
「私達の個人情報を2ガロンで買おうとしているのですか?」
「200ガロン、足りないです?」
「200ガロン……っ!?」
穏やかな声音を崩さないライムに眉間に皺を寄せたゐぬが相場より上のはずです?とライムに提示する横で話についていけずに食事を黙々と食べていたナツが驚いたような声を上げる。
200ガロンと言えば平民の平均年収にあたる。
貴族でもおいそれと使える金額では無い。
センとキーも正気か?と言いたげな顔でゐぬを見る。
「私達【黎明の黒翼】もその辺は色々知りたいので半額をお出します」
「……そうですね、条件を飲んでいただけるなら御二方とも半額でいいですよ」
これで予定の倍数聞けますよね?と言いたげなガリウスの瞳に無言で頷いて応えたゐぬを見たライムがふわりと微笑んでそう告げた。