◆情報屋③
「もう無理……何も入らないよぅ……」
食堂でドカ盛メニューを何とか食べきった2人は近くの路地裏に積まれた木箱に座り込んでぐったりとしていた。
イメージイラストとも客との対比的にもそこまで大きいと思わなかった料理に完全に胃袋を制圧された2人はしばらく1歩も動けないぞ、と深く溜息をつく。
「まぁ、私達が手ぶらでも、キーかライムが情報屋の情報を集めてくれるでしょ……」
「情報を売ってくれる情報屋を探す為に情報屋の情報を探さないといけない、って……無理ゲーすぎるでしょ……」
諦めた声のセンにナツが力なく笑って答える。
そんな2人の耳に路地の奥から歓声のようなざわめきが聞こえてくる。
2人揃って顔を見合せて頷くと言葉を交わす事無く路地の奥へ進んでいく。
その突き当りは空き地なのか開けて明るくなっているそこから聞こえてくる声は大きくなったり小さくなったりしている。
「……え?」
広場に出ると建築資材の廃材だろうか、様々な物が雑多に置かれている場所の中央、意図的に片付けられた空間に置かれた即席のテーブルのようなものの両端に向かい合う2人を数人が囲み、その数人があげる声が聞こえてきていたらしい。
「……札術か」
「札術?」
その光景を見ていたセンがぽつりと呟いた声にナツが何それ?と言いたげに首を傾げる。
するとナツ達の声に気づいたギャラリーの1人が得意げな声を上げる。
「新進気鋭の魔術系統の一種で札に書いてある事を具現化する戦闘魔術だ」
「今はその元になった札術決闘中、と言ったところかな?」
センの確認によくわかったな、と説明してくれたギャラリーが肯定する。
二人の会話にナツがなんのことかさっぱりと首を傾げる。
「まだ正式体系されてなかったと思ってたけど……思ったより使える人数は多そうだね」
センがこれは後で父に報告かなぁ、と面倒くさそうに唸るがそれは試合で勝負が着いたらしい歓声に紛れて消える。
「あ、あの!」
勝者も敗者も全員が健闘を讃え合う騒ぎを切り裂くようにナツが声を上げる。
「この中に情報屋の人は居ませんか!」
ナツの言葉にセンがこの空気の中聞くか!?と驚きの表情を向けギャラリー達はお互いに顔を見合せ、知ってるか?と言うような視線を交わし合う。
束の間、不自然なまでの沈黙が生まれる。
その中で素知らぬ顔でそっと立ち去ろうとする人物をナツが目敏く見つける。
「……待って!」
先程まで満腹で緩慢な動きしか出来なかったとは思えない程の俊敏さで動いたナツが広場を抜けようとした人物の襟首を引っつかみ勢い余って広場へ引き倒す形になる。
「いててて……なんなんです、いったい」
尻もちを着いた糸目の青年は強かに打ったらしい腰を擦りながら立ち上がり散らばった札を見てため息と共に拾い上げることはせずに腰に提げた半透明のケースの蓋を上げるとカードが時間を巻き戻すように自ら戻っていく。
「ごめんね、怪我させるつもりはなかったんだけど……私達、魔王について知ってる情報屋を探しているの。
それであなたは、何か知ってて私から逃げたんだと思うんだけど……なんでもいいから教えて欲しいんだ、お願い」
この通り!と頭を下げたナツに糸目の青年は面倒事に巻き込まれたぞ、と言う感情を隠しもせずに顔にうかべ
人混みの後ろで皇族が平民に頭を下げた、とセンは気が遠くなる気持ちになるが同時に居丈高に命じず、身分も権力もひけらかさないナツへやっぱり面白いや、と込み上げてくる笑いが堪えられずに小さく肩をふるわせた。




