◆情報屋②
「ねぇ、セン」
「なんだい、勇者?」
大通りで適当に捕まえた人に聞いたこの街でいちばん有名な食堂で料理を待つ間に話しかけてきたナツにセンが小さく首を傾げる。
「その勇者って呼ぶのやめない?」
「なんで?かっこいいよ?」
「普通に恥ずかしいんだよ!!」
ナツが皇国の勇者だと知ってからナツ、ではなく勇者と呼び出したセンにナツが抗議の声を上げるがセン本人はかっこいい呼び方されてるんだから別に良くない?と言うように不思議そうな顔をするのでナツがそのままどうしたもんかなぁ!とばかりに頭を抱える。
「それにほら、ナツは勇者なのに戦えないって聞いたけど、極東の国だと言い続けてればそのうちそうなるみたいな言い伝えがあるらしいし!」
「勇者って言い続けてれば勇者になれる……?」
だから勇者って呼ばれてれば勇者になれるよ!と言うセンにナツがそんなことある?と怪訝そうな目を向けるが物語やゲームの主人公を思い出したナツはそう言えば主人公達も勇者って呼ばれてるな、と思い直す。
「勇者って名乗るなら自称と他称で効果2倍になるんじゃない……?」
「便利アイテムもびっくりの裏技じゃん、さすが勇者!」
気がついてしまった、とばかりに呟くナツにセンがそういう事に気がつけるかどうかが勇者の条件なのかもしれないね!と適当な賛辞を投げる。
そうこうしているうちに運ばれてきたのは人の顔ほどの大きさの器に盛られた山盛りの白米。
その上には葡萄酒を煮詰めた芳醇なタレがとろりとかけられ輝きを放つこれでもかと重ねられた家畜化された魔牛の厚切り肉。
スタミナ丼と銘打たれたそれは食べ盛りとはいえ明らかに少女が食べる量では無い。
なんか思ってたのと違う。と言う顔をしたのは注文したセン。
続けてテーブルに置かれたのは大人の掌ほどある大きなカツ。
魔猪のカツ定食、と書いてあったそれには付け合せに小山のようなキャベツと少しの漬物、そしてセンのスタミナ丼に負けない大盛りの白米に野菜がたっぷり煮込まれた赤いスープはもはややや小ぶりのボウルに入れられているような有様で大きくないテーブルに所狭しと皿がひしめいている。
「なんか、イメージと違う……」
最後にデザートのプリンが並べられるとボソリとナツが呟く。
大衆食堂とは言えやたら体格のいい人間ばかりが食事をしていたせいかさほど大きいと思わなかった料理達は比較対象が自分に変わった瞬間にもはや嫌がらせのような大きさになっている。
「ま、まぁ……少ないよりはいいよね?」
覚悟を決めた顔でナツが箸を手に取るとセンも1度深呼吸した後真剣な顔で箸を取る。
「「いただきます……!」」




