◆情報屋①
「うー……おしり痛いー」
首都に向かう乗り合い馬車から降りたナツは半日ほど揺られて痛む尻を擦りながら涙目でうめく。
「なんで皆はそんな平気そうなのさぁ……」
それぞれ伸びをしたり服装を整えているものの割と平気そうな他のメンバーをナツが恨めしげに見つめる。
「勇者、お前まさか……乗り合い馬車、初めてか?」
ナツの呻き声に最もそばに居たキーがマジか、と言う視線をナツに向ける。
「初めてだよ!
皇国に居た時には家の敷地から出ること無かったし!
あっても馬車の中はもっとクッションが沢山あったし……!」
乗り合い馬車なんて乗る必要なかった、と言うナツに気づいたセンがさすが格が違うや、と茶化して見せる。
「なんでそんなにみんな平気そうなの?」
恨みがましい表情のナツにだって、ねぇ。と言うように面々は顔を見合わせる。
「普通、荷物を下に敷くか、魔力を緩衝材代わりに薄く生成しますし……」
「教えてよ!」
「ドリアードの村から出る時に平気そうだったのでてっきり知ってるのかと……」
あの時もちょっとおしりは痛かった、と零すナツに気づかずに申し訳ありません。と頭を下げる。
「え、あ、えっと……
知らない事を聞かなかった私が悪いから、ライムは悪くないよ、うん!
でも今度、魔力の緩衝材のやり方教えて欲しいかな!」
まさか頭を下げられると思っていなかったナツが分かりやすく慌てるがライムがそうですね、次があれば、と頷いたあと、何事も無かったかのようにセンへ向き直り、目的の情報屋の場所を確認する。
「あー、それ
私も詳細は分からなかったんだよね。
定住してない流れの情報屋らしくて……コービィに着いてから聞き込みすればいいかなって」
てへ。と笑って誤魔化すセンにライムが深い溜息をつき、キーがお前マジか、と言う呆れきった目線を向ける。
「聞き込みかぁ、定石は酒場だよね。
小説とかゲームでも人探しとか聞き込みは酒場って相場が決まってるし」
「あとは貴族のパーティとか、組合関係か?」
現実はゲームとか小説みたいには行かないと思うけど。と付け足すナツにキーがまぁ、ありじゃないか?と援護しつつ他に情報が集まりそうな場所を上げていく。
「後暗いやつだとカジノとかにも居るよね」
「……それなら落ち合う場所を決めてある程度バラけて情報を集めましょうか。
私は冒険者組合と傭兵組合、辺りには少し顔が効くのでそのツテで貴族周辺を調べてみようかと思います」
頭の後ろで手を組んだセンの気楽な言葉に調べるところがいっぱいだよー、と頭を抱えたナツを尻目にライムが手を挙げて1つ提案をする。
「お、それいいね。
それなら私は昼食も兼ねて食堂と……あとは商人組合と職人組合でも顔出しておこうかな。
商人のやつらは口が堅いけど、知り合いには融通してくれるし」
「じゃあうちは商業地区でも見てこようかな。
まぁ、見つかる可能性は低いだろうが、露店なら見かけた店主が居るかもしれんし」
「え、え!?
みんなそんなあっさり……私はどうしよう」
サクサクと調査場所に当たりをつけていくメンバーにナツがオロオロしていればセンが特に見ておきたい場所がないなら私と回ろうぜ、とナツを誘う。
センの人懐っこい笑みに救われたような顔を見せたナツが一緒に行く!と即答する。
「では、日暮れにこの噴水に集合で」
ライムの声で日暮れに首都の中央広場にある大噴水集合の確認をして全員が散開したのだった。