◆新しい仲間
魔物の異常発生が突然現れた精霊の聖鐘により終結したあと、館で落ち合ったナツとライム達は事後処理をセンとキーにより責任ある大人達に押し付けて翌々日には再開された祭りへと繰り出していた。
「結局なんだったんだろうね、スタンピードって。
ゲームだとダンジョンから魔物が溢れてきたとか森にドラゴンが出て住処を追われた魔物が人里に向かって逃げてきた、とかあるけど現実でさすがにそれは無いでしょう?」
「いえ、ダンジョンの氾濫は現実にもあります。
でもこの規模でしかもあんな……戦闘中に人間を生きたまま魔獣が食い散らかすなんて事は普通はありません」
「ドラゴンも数千年前には居たらしいけど、今は亜竜種だけで純粋なドラゴンは絶滅したって噂だしなぁ」
屋台で売っていた木製の棒を突き刺した果実に飴を纏わせた伝統菓子を舐めながらゲームの話はあくまで架空の話でしょ?という雰囲気のナツの言葉を果実をくり抜いたジュースを手にしていたライムが即座に否定する。
奇抜なお面の上から屋台で買った動物をデフォルメした可愛らしいお面を被って頭の後ろで手を組んで歩くセンがわかんねぇ。と口を尖らせて唸る。
「あとは、ゲームのセオリーでいくと統率能力のある個体による指揮を受けたとかだろうな」
魔獣を模したとされるふんわりと焼き上げられた甘い菓子を頬張るキーがそれこそ魔王ってやつの仕業じゃね?と面倒くさそうに呟く。
「そ、れ、だ!
そうだよ、魔王だよ、魔王!
確か、ナツは魔王討伐の旅に出てるんだよね?」
さすがキー、天才か!と瞳を輝かせ、テンションを上げたセンがそうだよ、そんな面白そうな話あったじゃないか!と言わんばかりにナツに声をかける。
「まぁ、うん……一応……?
でも私……」
「良し、そうと決まればやることはひとつだな!」
「おい、セン……お前まさかとは思うが……」
魔王の居場所なんて知らないし、倒せる力もないよ。と言おうとしたナツの言葉を遮ったセンが悪戯を思いついた!とばかりに笑い声混じりの声で何かを決意すると長い付き合いから何かを察したキーが嫌な予感がする。と小さく顔を顰める。
「そのまさか、だよ!
1度しかない人生、楽しそうと思った方に進まなくちゃもったいないでしょ?」
キーなら分かってくれるでしょう?と言わんばかりのセンの言葉にキーが額に手を当てて諦めたように溜息をつく。
「私は行かな……」
「もちろん、キーも一緒に!」
せめてもの抵抗として行かないからな。と言おうとしたキーの言葉を遮ったセンの笑顔に何を言っても無駄だと察したキーが再度深く溜息をつく。
「えっと……?」
「つまり……?」
センとキーのやり取りに完全に置いていかれているナツとライムが揃って首を傾げる。
「ナツとライムの魔王討伐の旅に私達も付いて行きたい!
良いでしょう?戦力はあるに越したことは無いよ!
私とキーなら魔獣討伐は慣れてるし、即戦力!」
セットでお得!と言わんばかりの勢いでナツとライムに詰め寄るセン。
もうどうにでもなれ、と言わんばかりに焼き菓子をもそもそと食べるキーをちらりと見たライムが即戦力……と小さく繰り返す。
ナツをちらっと見たライムは私としては大歓迎です。とセンに返す。
「わ、私も大歓迎だよ!
旅は大人数の方が楽しいし!」
うんうん、とライムの了承に頷くセンにナツも慌てて声を上げる。
持っていた飴の最後の一口を噛み砕いたナツはそのままセンとキーの方を向いてニコリと笑みを浮かべる。
「私は、ナツ。
ナツ·ヴァルトブルク。
皇国の皇帝から魔王討伐を命じられた勇者、よろしくね」
「ライム·コレットです。
皇国皇帝より勇者ナツの護衛を命じられた宮廷筆頭魔導師です」
ナツの言葉と向けられた視線に1つ頷いて見せたライムが続けて自己紹介を行う。
「待て待て待て、ナツ·ヴァルトブルクって言ったよな、今?
ヴァルトブルクってあのヴァルトブルクか?
つまり皇国の皇帝は自分の親戚を魔王討伐に差し向けた、ってことか?」
ナツの言葉にセンが分かりやすく慌ててみせるが皇帝はお父さん!と更に追撃する。
「コードウィガルド王国、交易都市ディアスの領主の娘。
セン·リーファスがヤースガーフン皇国、ナツ·ヴァルトブルク皇女殿下並びにその守護者たるライムコレット嬢へご挨拶申し上げます」
「今更すぎる気がするんだが……まぁ、いいか。
同じく、コードウィガルド王国、交易都市ディアスの領主補佐の娘。
キー·ボニーがヤースガーフン皇国、ナツ·ヴァルトブルク皇女殿下並びにその守護者、ライム·コレット筆頭魔導師様へご挨拶申し上げます」
2人ともドレスではなくズボン姿だからか手を胸に当てて騎士のように軽く膝と腰を下り恭しく貴族から王族と他国の高位者へ向かっての挨拶を行うと分かりやすく狼狽したのはナツだった。
「今まで通り、今まで通りでお願いします……!」
そういうの苦手なんだ、とわぁわぁと騒ぐ。
そんなナツを見たライムが何か言いたげな顔をしたあとしかし何も言わずに溜息をつく。
「実を言うと私も貴族の礼儀だのなんだのって苦手だから、助かる。
これからよろしくね、勇者!」
「うちらの生活水準なんて下手したらちょっと大きな商会員に負けるしな、貴族的振る舞いを求められても納得いかないところあるよな」
ナツの言葉に目に見えて助かった!という顔をしたセンと貴族的振る舞いとか誰が決めたんだよ、と言いたげなキーが諦めたように肩を竦めた。
こうして、ナツとライムの旅にセンとキーが加わる事になった。




