◆異常発生⑤
「……これが、昼間と同じ街……?」
子供を避難所に届けたナツが街に戻った時には粗方避難が済み、がらんどうの街を見たナツが呆然とつぶやく。
賑やかに人々が行き交っていた町は静寂に包まれ、風が吹き抜ける音が響き、物悲しげに見える灯りの消えた建物がずらりと並んでいる。
廃墟街のような不気味さにビクビクしながらも大剣の柄を握りしめてナツは街を進む。
自分が戦闘で役に立つとは思えないが、それでも先程の子供のように、自力で避難できない様な人の避難を手伝うことはできるはずだと街に降りてきたのだからと自らを鼓舞しながら街を歩き建物ごとに誰かいませんかー?と声をかけていく。
遠くで光が炸裂し、街を一瞬昼間のように照らしたり、この世のものとは思えない絶叫が遠くから聞こえる度に大剣を強く握り直し、大丈夫、大丈夫と自らに言い聞かせながら街を駆けていく。
その視線の先にフラフラと街を歩く足取りの覚束無い女性が現れる。
その女性はナツを見ると今までのぎこちないような動きはどこへやら一直線に走ってくる。
一瞬、ゲームで見た事のある《動く死体》かと思ったナツの全身に緊張が走るが、息を切らして走ってくる女性の肌は別に腐乱している様子はなく助けて、と明確に声を上げている事から《動く死体》ではないと判断したナツがどうしましたかーっ?と声をかけるとナツの前で膝に手をついて肩で息をする。
その女性は避難する時に子供とはぐれてしまったというのだ。
それで子供を探して街に残っているらしい。
「その子かは分からないけど、似たような歳の子供なら避難してる途中で親とはぐれた子をあのセン……あの丘の上の大きな家に送り届けたから……もし違う子だったとしてもあとは私が探しておくから、あなたは先に行っていて」
ライムに危険だと叱られているナツは武器も持たない人が戦えるわけない、と判断して早めの避難を促す。
先に子供が避難しているかもしれないという情報に女性があなたも気を付けて。と頭を下げて走り去っていく。
時折、地面が揺れる程の衝撃と何かが爆発するような音が響く度にビクビクしながらナツは街中を逃げ遅れを探して歩き回る。
誰かいませんか、と声を上げすぎて既に喉はカラカラで声も枯れているがそれでも立ち止まりはしない。
街の中央で見つけた井戸で水分補給を行い、顔を洗って自分の頬を叩いて気合いを入れ直したナツが再び各々の家々で声をかけ歩いていく。
もう人なんて残ってないんじゃないかと思い始めたナツはそれでも誰かいませんか、と声をかけ続ける。
そうして諦めなかったナツの呼び掛けに応えるように1件の家の納屋から僅かな物音が響く。
周囲が静かでなければ聴き逃していたであろう僅かな音。
それを聞いたナツは直ぐに納屋の方に向かい半開きになっている扉から中を伺う。
「……誰かいますかー?」
モンスターかもしれない、と僅かに緊張したナツの声に納屋に積まれた藁の奥から泣きじゃくっている少女とその少女を勇気づけるように手を繋いだ少年という幼い2人組。
兄妹、にしては似ていないようだが、幼馴染かなにかだろうか。
「こんにちは……でいいのかな?
私はナツ、街の人を助けに来たんだけど、君たちの名前は?」
ぐすぐすと泣いている少女を守るように半歩前に出ていた少年の警戒した瞳に一先ず安心させようとにこりと笑顔をうかべたナツが声をかけると少年はバミと答え、少女はセンカと答える。
「バミくんにセンカちゃんだね。
私が来たからもう大丈夫!
一緒に避難所に行こう」
ナツが2人に手を差し出し2人もその手を取ろうと手を伸ばしたところで顔色を変えて悲鳴をあげる。
砂を蹴るような音に慌てて振り返ったナツが見たのは向かって1匹の灰色の狼に似た獣がナツの頭を噛み砕こうと大きく顎を開けて飛びかかってきた瞬間だった。
引越しの進捗、ダメです。
正直、仕事してる場合じゃないです( ´ཫ`)
投稿時にも注意すると思いますが、次話にちょっとグロいというか、痛い表現があるので苦手な方は注意してください!




