◆異常発生③
その頃、ナツは閉じ込められた部屋からの脱出を試みていた。
「私は、勇者に選ばれて!
私は!勇者になるんだから、安全な場所にいる場合じゃないんだよ!」
膝から崩れ落ち俯いていたのは数分前。
邪魔だと足手まといなのだとハッキリと告げられた言葉に傷付き、滲んだ涙で視界はぼやけていた。
それでも、外から響く悲鳴や、怒号、必死に子供を探す親の声。
部屋の外から響いてくる音に泣いている場合じゃない。と袖で乱暴に涙を拭い膝を叩いて立ち上がり、まずは何とか部屋から出なくては、とドアノブに手を伸ばしガタガタと扉を揺らして現在に至る。
「私は……私は……勇者だ。
……確かに、剣も握ったことの無いし、皇女とはいえ安全の保証された場所で自由に生きてた……けど……だけど……
私の大好きなゲームの……物語の勇者に、私だってなれるはずなんだよ!」
ナツの渾身の力を込めた体当たりは扉を封じる氷に罅を入れる。
じんじんと痛む肩にちょっとでもクッションにしようとコートを羽織り、武器である大剣を背負うと再び助走をつけて扉に体当たりをする。
その瞬間に氷が砕け、扉が開くと勢い余ったナツはそのまま廊下を転がり壁に激突する。
「ってて……、でも、よし。
外には出られたぞ……!」
ぶつけた後頭部を擦りながら立ち上がったナツが気合いを入れようと頬を叩いて屋敷の外、街へ向かう為に、まさに蜂の巣をつついたような騒ぎになっている邸を抜け出して、屋敷へ向けて逃げてくる人々の流れに逆らいながら走り続ける。
途中でちらりと見えた黒い軍勢に無意識にヒュッと鳴った喉を聞かなかった事にして間に合え、と祈るように繰り返しながら走り続ける。
「邪魔だっ!」
「うわっ」
ちょうど街に入るという所でナツは目の前で繰り広げられた光景に思わず足を止める。
小さな親とはぐれた子供を避難に向かっていた男性が突き飛ばし、子供はそのまま地面を転がり同じように逃げる人々に蹴られたり踏まれたりしていく。
「大丈夫!?」
慌てて人を掻き分けて子供をそれ以上怪我をしないように抱き抱える。
「……う、うわぁぁあんっ、ままぁーっ!!」
助けてくれる人がいた事に安心した子供が安全だと思ったようで痛みと恐怖にみるみるうちに涙ぐみ火が付いたように泣き叫ぶ。
「よしよし、勇者が来たからもう大丈夫だよ!
一緒にお母さんを探そう!」
人の邪魔にならないように道の端に避けたナツが子供を宥めながら安心させるように笑顔を浮かべてみせる。
「先に避難しているかもしれないし、傷の手当もしなくちゃ……センのお家が避難所だって言ってたし」
そう言ってナツは今来た道を振り返り子供をしっかりと抱き締めて息を整えることも無く屋敷へ向かって踵を返して走り出した。
今週引越しですが、ほとんど準備が進んでいません……⊂⌒~⊃。Д。)⊃ナンテコッタイ