◆異常発生①
森の恵みをふんだんに使用した豪勢な食事を食べ、娘と同年代の少女で旅をしているという話を聞いたセンの両親が良かったらうちに泊まって行くといい。という言葉に甘える事にしたナツとライムは是非にと勧められた風呂から上がり、2人にはやや広い客室のベッドに体を埋めていた。
「この旅でまともにベッドで眠れるとは……思っていませんでした……」
「久々のお風呂にベッドですごく……人間生活してる感じがする」
2人してベッドの上でだらけながら呟くとこれまでの疲れもあったのかつらつらと瞼が重たくのを感じながら心地よい眠気に身を委ねて意識を手放すが、幾許もしないうちにけたたましく鳴り響く警鐘の音で目を覚ました。
「……なにごと……?」
邸内をドタバタと走り回る声に、交わされる怒号、窓の外もそんなに眠っていないのに空が赤く染っている光景に寝起きで頭の回っていないナツは目を擦りながら身を起こす。
「ナツはここにいて下さい。
決してこの部屋から出ないでくださいね」
むにゃむにゃしているナツに既にローブを着込み杖を手にしたライムが振り返り告げる。
どこに行くのか、何が起こってるのか訪ねようとしたナツだが、口を開いた瞬間に部屋の扉が勢いよく開かれる。
「良かった、起きてた!」
「何があったんですか?」
息を切らして扉の前にいたのは背に自らの背丈ほどの金属の筒を背負った仮面をしていないセンが安心したような様子にライムが単刀直入に尋ねればセンが真剣な表情で小さく呟くように告げる。
「《魔物の異常発生》が起こった」
「近くにダンジョンでもあったのですか?」
「そんなもの無いはずなんだけどな。
だけど、突然……すまんけど詳しい事は私にも分からないんだ。
とりあえず領土に踏み込まれて本格的に祭りを潰される前に総力をもって叩き潰すつもりだけど……2人は魔物と戦えるかい?」
苦々しげに言い捨てるセンにライムが確認するように尋ねればセンが首を横に振り、強い意志の宿る鮮やかなオレンジの瞳でライムに戦えるなら手を貸してほしい。と告げる。
「無論、私はそのつもりです。
ですが……ナツは無理です、ここに置いていきます。
ここは避難所も兼ねてますよね?」
「ライム!
私だってくら……クラなんとかに攻撃出来たじゃん!
私だって、みんなと戦えるよ……!」
「《魔物の異常発生》に素人が来た所で邪魔です!
ここで大人しくしててくれるのが1番役に立ちます」
センの言葉に当然だと頷きつつも背後に視線をやってナツは置いていくと明言したライムにセンがここが避難所だと肯定し、ナツを置いていく旨を了承したがナツが猛抗議するが無能な味方が1番邪魔です、とハッキリと叩き切る。
「良いですか、これは遊びじゃなんです。
王族の国民へのアピールの為のなんちゃって討伐旅じゃないんです。
一人一人が命を賭けた生きるか死ぬかの戦いでさすがの私も他人を庇っているような余力なんてありません。
剣もろくに使えない素人は足手まといでしかないんですよ、分かったら邪魔しないでください。
行きましょう、セン。
歩きながら作戦や伝達事項があれば教えてください」
まだ食いさがろうとするナツにライムが眦を吊り上げて叩き付けるように怒鳴りつけると荒々しく扉を閉めて扉と窓を凍てつかせてしまう。
待って、と追いかけようとしたナツは開かない扉に阻まれて遠ざかる足音にただ、膝から崩れ落ちた。




