◆奇祭②
「退いて退いてーっ!」
露天商のオジサンに別れを告げて道を歩いていたライムとナツは遠くから地響きとそんな声が聞こえたような気がして振り返ると土煙を上げて”何か”が勢いよく近付いてくる。
いつの間にか周囲にあれほどあった人混みはなくナツとライム以外には金属製と思われる板を地面に突き刺す露天商達ぐらいしか見当たらない。
何事かと動きを止めるナツとライムの目にも土煙の正体が徐々に明らかになると同時に2人は我が目を疑う。
「お嬢さん達、脇に避けないと踏み潰されるぞ!」
2人揃って脳味噌が理解することを拒否した結果、呆然と固まるがその間もどんどん距離が縮んでいく。
露店の店主が張り上げる声の意味も2人には理解できない。
「そこの人達ー!退いて退いてー!」
2人に気づいたらしい奇妙な鳥の仮面を被る小柄な人影が声を張り上げる。
「危ないからーっ!!」
2人の目の前に迫るのは2mは優に超えている人間とも鶏ともつかない鶏人間の集団に追われているのか、はたまた率いているのか。
奇妙な白い鳥の仮面に、黄色く染色した植物の蓑を羽織る奇抜な格好をしている、声から察するに少女、が全速力で通りを駆け抜けている。
少なくとも、2人が生活していた聖王都周辺には生息しない生き物が一人の少女を追って走っている。
呆然としつつもそれでも長年の経験から無意識に体を動かしたライムが杖を構え、呪文を唱えながら踏ん張るために足を肩幅に広げ腰を落とす。
「……とう」
微妙にやる気のない声と共に何かが上空から落ちてくるとライムの隣に居たはずのナツが露店と露天の間、積み上げられた木箱の山の中に不自然な格好で吹き飛んでいく。
「勇者!?」
「あぶねぇし、邪魔」
悲鳴もなく吹っ飛んだナツにライムが即座に振り返りナツの方へ駆け寄りすぐに身を翻すとナツを襲ったものからの追撃から守るべく浅くなりそうな息を意識的に深く切り替える。
そんなライムの視線の先、ナツがいた場所には緑のポニーテールを揺らした半眼の少女が2人にやる気のない声でそう告げたあと2人に背を向けて手にしていたボウガンを構える。
その視線の先にはもう数秒でこちらに到着しそうな程まで近づいている。
ただし、ポニーテールの少女が構えたボウガンは上空へ向けられている。
ただし、そこに番えられるべき矢は存在しない。
「黎明の黒、叫びの赫、鎮静の青、《鮫時雨》」
相変わらずやる気のない声音と姿の少女は構えたボウガンの引き金を引く。
ヒュン、という短く鋭い風切り音が響いたあと鶏のような生き物と少女の集団の上空から雨のように魔力で作られた矢が降り注ぐ。
自動追尾誘導効果が付いているのか矢は途中で曲がったり、地面スレスレまで落ちたのに跳ね上がるようにして下から鶏のような生き物を撃ち抜いていく。
「何もしてないのに蹴飛ばすなんて酷いよ……っ!」
「事故って逃げてる私まで射るなんて酷いよ……っ!」
崩れた木箱の山の中から復活したナツとポニーテールの少女の足元へ転がるようにたどり着いた奇妙なお面の少女の声が重なる。
「……めんどくせぇ。
おら、帰るぞ」
会話も釈明もする気が無いのか、ポニーテールの少女はお面の少女の襟首を雑にむんず、と掴み引き摺りながらいつの間にいたのか丸々と太った鶏の群れを引き連れて街の方へ去っていく。
射られたはずの鶏人間のような奇妙な生き物こ死体はどこにもなく狐につままれたような気持ちでお互いの顔を見合わせるナツとライムだけがぽつんと取り残される。
「見慣れたとはいえ、この分だと今年の魔獣狩りもボニー家のお嬢さんが優勝だろうなぁ」
店先に差し込んでいた鉄板の奥に避難していたらしい露天商の店主達がわらわらと通りへ戻り鉄板を回収しながら、その中の誰かがそう呟いた。
過去にないPV数に朝から震える作者です。
見てくださる皆さんのおかげで執筆頑張れてます、ありがとうございます。




