◆奇祭①
ここから新章、森の国編になります!
新章というよりここから本編みたいなものですが……。
新しい旅の仲間が増えたり、ナツが戦ったり、ナツが逃げ回ったり追いかけ回されたり爆発したりする予定です。
是非、最後まで楽しんでください!
「んんーっ、着いたーっ!」
数日ぶりの地面の感触を足裏に感じながら大きく伸びをしたナツの隣で港から既にお祭りモードなのかひしめくように溢れかえる人混みにライムがほんの少しだけゲンナリした表情を浮かべそれを隠すように帽子を深く被り直す。
「じゃあ、ライムさん、ナツさん、俺達はここまでッスけど何かあれば直ぐに【白鯨商会】の名前を出して使って欲しいッス。」
「ここまで親切にありがとうございます。
買い物は積極的に【白鯨商会】を使いますね」
「ガドくん、わざわざありがとう!
ご飯、美味しかったって作ってくれた人に伝えてね、それからシィラちゃんとルドウィンさんにもありがとうって伝えておいてくれると嬉しいな」
「はい、お二人共魔王討伐の旅、どうかご無事で。
また、必ず会いましょう」
「うん、また必ず会おうね」
「必ず会いましょう、それまでお元気で。」
荷降ろしなどで忙しい乗組員を代表してガドが挨拶に来たのでナツもライムも振り返り頭を下げる。
再会を約束して人の流れに乗って歩き出すライムとナツは見送るガドが見えなくなるまで何度も振り返り手を振った。
「さて、まずはこの辺りの領主に声をかけて首都を……勇者ナツ?」
「……うん?
うん、美味しいものいっぱい食べようね!」
「人の話聞いてました?
あ、ちょっと1人で勝手に歩かないで下さい!」
完全にガドが見えなくなるとライムが緑の国の異名にふさわしい山のようになだらかに盛り上がって続く森を見上げて言葉を紡ぐがふと目をやった先でナツは露店をキョロキョロしていたようで話を聞いていた様子がない。
その事にため息をついたライムがほんの一瞬目を離した隙にナツがフラフラと露店の方へ歩いていくのをライムが慌てて追いかける。
肉の焼ける香りと芳ばしいタレの焦げる香りが風に乗って辺りに広がっており、ナツはそれに引かれるように歩いていく。
「船だとずっと魚か干し肉だったから焼肉食べたいなぁ」
「おっ、お嬢さんは外の国の人かい?
このお祭りで出る魔獣の串焼きはどの露店でもほっぺたが落ちるほどうめぇんだ、もちろんうちが1番だがな!ほれ、1本どうだい?」
露店近くでキョロキョロしていたナツに声をかけた露天商のおじさんが1本サービスしとくぜ。とナツに串焼きを差し出してくる。
その串焼きをいいの!?ありがとう!と受け取ったナツが1口串焼きを頬張ると目を見開く。
「おじさん、これすっごく美味しいね!
私、魔羊とか魔牛なら食べたことあるけどこんなに美味しくなかったよ!
特にこのかかってる甘辛いタレが最高!
いくらでも食べられそう……!」
頬を紅潮させて店主に美味しい!と絶賛してはまた1口食べる、を繰り返すナツのよく通る声に通行人が1人、また1人と足を止める。
「勇者ナツ……!勝手にフラフラしないでください!」
そんな人混みを掻き分けて漸く追いついたライムが疲れきった声でナツを叱る。
「勇者?
皇国が勇者を出したと聞いたが……失礼だが、到底戦えるようには……」
「勇者?アレが?」
ライムの勇者、という言葉とそれにごめーん、と謝るナツを見た人々がざわつく。
ライムがしまったと言う表情を浮かべて周囲を素早く見回す。
そんな人々とライムを見た露天商のおじさんが大笑いをする。
「お嬢さんが勇者ならうちは勇者絶賛の串焼きって売り出せるな!俺は運がいい!
応援しか出来んが、魔王退治を頑張ってくれ!
そして英雄として凱旋してくれ!
そしたら今度は英雄絶賛の串焼きとして売らせてくれ」
ガッハハ、と豪快に笑うオジサンに周りの露天商達が商売時か?と互いに顔を見合わせる。
真偽はともかく皇国が勇者として送り出した者が絶賛した串焼き、と言うワードに足を止めていた人々が、1人また1人と串焼きを買っては驚いたように目を開き解けるように笑みを浮かべる。
「美味しいは正義だよね、やっぱり」
お嬢さんもどうぞ、と渡された串焼きを頬張り小さく笑みを浮かべたライムを見て最後のひと口を食べたナツが小さく呟いた。