◆サンバルト海域④
出港の際に問題はあったものの、今は無事に航海中である。
あれから《海の怪物》を陸に引渡し、船の損傷も直ぐに補修されて、半日遅れでの出航となった。
船上のパーティでは、ナツの予想通り海鮮を中心に豪勢な食事が提供され、料理人が腕を奮ったそれらに全員が舌鼓を打った。
パーティの最中、ナツとライムは英雄扱いでどこにいても人に囲まれチヤホヤと褒められその度にライムは当然のことをしただけだと逃げ出し、ナツは照れた笑みを浮かべて応えていた。
「疲れたぁ……」
「お疲れ様です、良かったら食べますか?」
ようやく部屋に帰ってきたナツはそのままベッドにぐったりと倒れ込む。
そんなナツを苦笑気味に迎え入れたライムがテーブルの上の大皿に盛られたフルーツをナツにすすめる。
「ご飯は美味しかったんだけど、あれじゃあ全然楽しめないよ……」
「えぇ、だと思って私は早々にこっちに避難してました」
ベッドの上からちらりとテーブルの上を見たナツがゆるゆると体を起こすさまをライムが小さく苦笑している。
「勇者ナツは皇族ですからああ言うのに慣れてると思ってました」
「皇族……って言われてもピンと来ないんだよね。
私、皇国の外れでメイドと2人で自給自足みたいな生活してたんだよ……想像してるあの煌びやかな宮廷なんて入った記憶すらないよ」
だからほっといてもいいかと思った、と零すライムにナツがないない、と明るく笑いながらむしろ人混みすら慣れてないとライムの言葉を否定する。
「ヤギを投げたり、犬に引き摺られたり、馬に乗って馬追いかけたり……宮廷に居るより絶対楽しい生活してた自信あるよ」
兎を模した形にカットされたアプルと言う果実を片手に齧りながらドヤ顔で言い切るナツに己の境遇を嘆いているのかと思って慰めようとしたライムがそうですか、と曖昧に笑ってこたえる。
「だから魔王倒したら宮廷生活って言われたら私は永遠にこのまま旅をしていようってくらい嫌だからそんな顔しないで。
あ、この果物食べた?甘くて美味しいよ」
次に手に取った紫色の皮に覆われた巾着のような果物を1口齧ったナツがライムに凄いから!と無邪気に勧めるのを知ってますよ。とライムが苦笑しながら手に取る。
「フィッツリーと言う果物で花を咲かせずにいつの間にか実が木に成っているという不思議な果物なんですよ、これ」
「花が咲かないのに、果物ができるの?
そんな不思議な果物があるんだ……ライムって物知りだね、すごい」
手で皮を剥きながらフィッツリーを知らなそうなナツにライムが説明すると不思議そうにフィッツリーを観察したナツがライムの方を向いて屈託のない笑みを浮かべる。
そんなナツにライムが私も知らないことだらけですよ、つられたように小さく笑った。




