◆サンバルト海域③
「キリがないですね……、せめてもう1人魔法使いがいればやりようはあるのですが……」
「くらぇぇえええっ!!」
何をしても再生してしまう《海の怪物》に頬を伝う汗を拭ったライムが顔を顰める。
魔力自体にはまだ余裕があるにしても無尽蔵とはいかない上に、ポーションや休憩などで魔力の補給もできない状況に
このままではジリ貧だと打開策を必死に考えるライムの隣、雄叫びを上げながらライムの隣に走り込んできたナツが人の頭くらいの大きさの茶色く、表面が短い毛のような物に覆われた南国原産の木の実、ココの実を投擲する。
ナツが勢いをつけて投げたココの実がごうっ、と音を立てて飛んでいき《海の怪物》の胴体にめり込んだ。
やや遅れて放たれた大砲の砲弾は弾力のある胴体に尽く威力を殺されて海面へ音を立てて落ちていくにも関わらずなぜかナツの投擲したココの実だけがなぜか《海の怪物》にくい込んでいる。
「見たか、これが勇者パワーだ!
これだけ的が大きければ流石の私も外さない!」
「勇者パワー……いえ、そんな事よりこれは好機ですね」
ココの実がくい込んでいるせいで上手く再生ができないらしい《海の怪物》がどうにかココの実を外そうと触手を振り回し胴体を捩るがなぜか一向に胴体から落ちない。
ナツが再び投擲したココの実が暴れ回る触手をぬけて胴体に再びめり込む。
それを見た乗組員もココの実を手に《海の怪物》へ向かって投擲するがそもそも届かなかったり暴れ回る触手に弾かれて明後日の方向へ打ち飛ばされていく。
「"戦場の咆哮、撃滅の槍、蒼き閃光
重ねて、朽ち果てよ、戒めの庭、静かなる森"
《凍結氷槍》」
ナツが5つめのココの実を投げた時に詠唱を終えたライムの傍らには白い冷気を纏う円錐型の巨大な氷塊がその先端を《海の怪物》へと向けており、ライムが長杖を振るうと氷の槍が勢いよく射出される。
途中でナツの投げたココの実を追い抜いて突き刺さった氷の槍を中心に《海の怪物》の動きが鈍くなっていく。
遅れて届いたナツが投擲したココの実がぶつかるとパキリ、と乾いた音を立てて《海の怪物》の胴体が砕け散る。
「私の適性武器、ココの実だった……?」
「ココの実は食材であって武器ではありませんよ、勇者ナツ」
だらりと触手が動きを止めて海面に落ちると巨大な《海の怪物》が海面にプカプカと浮かんでいる。
もうひとつ投げようと手にしていたココの実を見たナツがもしかして。と言いだけな顔で呟くとそんな訳あってたまるか、と言う表情のライムが溜息をつく。
そんな2人の背後で乗組員達の歓声が割れんばかりに響き渡った。




