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Gaillardia・Coral   作者: 海花
旅立ち
28/105

◆サンバルト海域②

「私が!一体!何をしたと!言うんですか!!」


船の奥に逃げる乗客と武器を手に甲板へ走る乗組員でパニックになっている狭い廊下を抜けてようやく甲板に出たヘロヘロ状態のナツの耳に一際鋭い少女の怒声が響く。

ローブを潮風にはためかせて杖を構え、ちょっと涙の浮かんだ親の仇でも見るような目で船の前方を睨みながら《凍てつく矢(アイン)》を連射している。

船の前方にいるのは、白い巨大な氷山……ではなく巨大な《海の怪物(クラーケン)》。

白く縦長い個体の《海の怪物(クラーケン)》はその長い触手を広げて船全体を包み込もうとしている。

海から現れる巨大な触手を持った怪物が航海中の船を襲い、その触手で船を握り潰すようにへし折り、海の底へ引きずり込んでは溺死した人間を貪り食うと言う伝承は子供の頃にみんな怖い話として親からよく聞かされる皇国の子供ならみんな知っているくらい有名な話だ。

悪いことをすると海に連れて行って化け物に食べさせるよ。と子供は親に脅されるのだ。


「そもそも!どうして!こんなに!陸地の近くに!出るんですかぁあああっ!

もっと!沖の!深海に!生きてるのですから!そのまま!深海に!いてください!」


そんな御伽噺に出てくる化け物相手に1歩も引かずに《凍てつく矢(アイン)》で触手を撃ち抜いて切り落とし、見えている胴体、らしき場所に攻撃をしている呪われてるんですか、私!!とライムが半ば八つ当たりのように《海の怪物(クラーケン)》を牽制しているが高い再生能力があるのかちっとも弱る気配を見せない。


「陸に戻れ!」


「民間人を巻き込むぞ!?」


まだ見えている陸に船を戻そうと指示が飛べば直ぐに否定の声が出る。

船を操る方も混乱しているらしい。


「しかも!こういう時に限って!相方が!遠距離攻撃どころか近接攻撃もろくに出来ない役立たずの素人って!」


「役立たず……」


ライムの八つ当たりのような攻撃もものともしないクラーケンよりもライムが喚いている言葉にナツが心にダメージを受けて膝から崩れ落ちる。


「勇者なのに、役立たず……。

いや、でもこれから頑張るし……

でも……あんな海の生き物1体どうすれば……」


船は陸に逃げて援軍に期待するようだが、クラーケンの触手が既に絡みついているのかギシギシと嫌な音がなるばかりで一向に動く気配がない。


「どうしよう……このままじゃみんな……《海の怪物(クラーケン)》の餌に……」


オロオロするナツの頭上で鋭い声が響くと船のマストの上からシィラが率いる数名が弓を引き絞り矢を放っている。

ヒュン、と風を切る音を立てて飛んでいく矢は、《海の怪物(クラーケン)》の弾力性があるらしい巨体に傷をつけるには至らない。

振り払うように触手をマストに向かって振り抜き、誰もがマストの上の人間の死を覚悟したが、見えない何かに動きを止められた瞬間に見えている根元からライムの放った《凍てつく矢(アイン)》が貫き引きちぎる。


「王国の盾の私が居る限り、船員の誰一人お前の餌になどさせません!」


「ライム、かっこいい……!

よ、よーし……私も……私……何ができるかな?」


力強く宣言したライムに乗組員達がそうだ!俺らにはライムさんが付いてる!と活気づき直ぐに統率の取れた動きを取り戻す。

そんなライムにかっこいいなぁ。と呟いたナツが膝を叩いて私も頑張ろう、と立ち上がるが

剣も届かず文字通り手も足も出ないような相手に一体何が出来るだろうかと辺りを見回す。


「……あれなら、私でもできるかも」


クラーケンの攻撃で開いた木箱からこぼれた南国の木の実を見つけたナツがうん。と呟いて甲板を転がる木の実を掴みに一目散に走り出した。

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