◆奴隷船⑤
暗がりから猫背の男を伴って杖の先端に明かりを灯して歩いてきたのは白いローブ姿の白髪の少女。
「なんだ、ライ……」
「勇者ナツ、出来れば伏せててください」
「ちょ、ちょっとタンマ!待って!思いとどまって!」
現れた見覚えのある姿に安堵したナツが敵じゃなかった、とため息をつくがすぐに長杖を構え宝珠を向けてくるライムにナツが落ち着いて!と慌てて声を上げる。
「……待ちましたよ、なので伏せてください」
「奥に小さい子がいるの、私の部屋のドアみたいに吹っ飛ばしたりしたら怪我しちゃう!」
2秒も待たずに伏せるように促すライムにナツがますます慌てた声を上げる。
ライム、実はめっちゃ怒ってない?!と悲鳴混じりにナツが声を上げる。
「私は温厚な方なので怒らせる方が悪いんですよ、勇者ナツ」
「本当に温厚な人は自分のこと温厚なんて言わないよ!!」
ふわりと笑顔をうかべるライムにナツが半泣きで叫ぶように抗議の声を上げる。
「うるさいので静かにしてもらえますか……。
……仕方ないですね。
こういうのはライスの担当なんですけど……」
小さくだが確かに舌打ちしたライムが杖の先端の明かりを消すと牢の前の錠前にかがみ込み杖を当てて小さく何かを歌うように囁く。
それから2度ほど杖で上を叩くとカシャンと軽い音を立てて鍵が外れる。
ギィィと耳障りな音を立てて開いた扉にナツが何が起こったのかと目を白黒させる。
「そろそろ自警団か騎士団が来ます。
早く帰りますよ、勇者ナツ」
「うん、ありがとう。
シィちゃん達も一緒に行こう」
牢屋の扉を背もたれ代わりにしたライムの言葉にナツが素直に頷いてからシィ達を振り返り手を差し出す。
「……えぇ。
みんなもいいわね?」
後ろを振り返り背に庇っていた子供達に確認し全員が頷いたのを確認したシィがナツの手を取って立ち上がる。
「……おい、お前……まさか、シィラか?」
「え、……その声、まさか……、ルド兄?」
「シィラ……っ、良かった……!
本当に、本当に、良かった……っ!」
ナツに答えたシィの声にライムの傍でひっそりと気配を消していたルドウィンがハッとしたように声をかければシィの方がびっくりしたように目を見開く。
驚いたように目を見開き暗がりでよく見えないルドウィンの顔をよく見ようとシィが目を凝らし、動きを止めたところに牢の中に走り込んできたルドウィンがシィを抱き締めて膝から崩れ落ち、その瞳からボロボロと涙を零す。
良かった、良かった。と繰り返すルドウィンと大の大人が泣くな。と背中を摩るシィと顔をしかめるライムを困惑気味に交互に見るナツがなんかわかんないけど、ハッピーエンド?と首を傾げて呟いた。




