◆奴隷船③
「イタタタタ……、ここ、どこ……?」
ナツが目を覚ますと暗い部屋で、板の上に転がっていた。
寝ぼけてベッドから落ちたのだろうか、と後頭部を押さえようとして両手の手首に見覚えのない金属製の枷が腕輪のように付いていることに気が付く。
「……そうだ、私……セスさんと」
手首のこの無骨な枷はセルシスが言っていた魔封じの腕輪だろう。
観光案内所で聞いた、人攫いが出る。という話を思い出したナツがセスさんがそうだったかぁ、と頭を抱える。
「バレたら絶対ライムに怒られる……!」
呻くナツの脳裏に浮かぶのは数日前に初めてライムが家にやってきた時に問答無用で扉を吹っ飛ばし笑顔でゲーム機を破壊しようとした風景。
あの扉のように木っ端微塵にされる光景をうっかり思い浮かべたナツがぶるりと身震いする。
「大丈夫、バレる前に出て何事もなかったことにすれば大丈夫!」
自分に言い聞かせるようにして立ち上がり自分の頬を叩いたナツがそうと決まればまずは脱出だ、と意気込んだところで部屋の隅で何かが動く。
「お姉さん、大人しくしてて
騒ぐと酷い目に合わされる」
ハッと音のした方へ視線を向けて緊張に身を固くしたナツを静かに睨むように見つめるガリガリに痩せ、ボロ布ような元は白いワンピースだったであろう服を纏う、ざんばらな金髪があちこちへ跳ねた小汚い少女が背後に更に小さな子供たちを庇うようにして手を広げている。
少女に庇われる幼すぎる子供たちは少女に縋るようにして一所に小さくなっている。
「ご、ごめん……私はナツ。
あなた達の名前を聞いてもいいかな?」
少女の様子に立ち上がっていたナツは静かに床に座り直して少女に向かって声をかけるが少女は不機嫌そうにシィ。とだけ答える。
「シィちゃん、私はここから逃げようと思うんだけど……良かったら一緒に逃げない?
後ろのみんなも一緒に」
「大人の言うことなんて信じない」
おずおずと手を差し出したナツに吐き捨てるように告げたシィが敵意ではなく憎悪に満ちた瞳でナツを見据える。
その年の少女に出せないはずの迫力に気圧されたナツが身動ぎをするように僅かに身を引く。
「い、いや、でも……いつまでもここにいる訳にはいかないでしょ……?」
私もライムに怒られたくないし。と付け足すとシィの顔が益々険しくなる。
「3人と4人と6人」
「え?」
「1週間で私達にここから逃げようと持ちかけた大人の数と盾にされた子供の数とお仕置された子供の数」
「え……」
シィの言葉にナツが凍り付いたように固まったのをほくそ笑むような、仄暗い笑みを浮かべてだから私はお前達大人を信じない。とゆっくりとナツに言い聞かせるように再び呟いた。




