◆アイマール港②
「入った時はどうしようかと思ったけど美味しかったーっ!
ありがとう、ライム!」
「私も最初は驚きました」
おなかいっぱいになって上機嫌で来た道を歩くナツにライムが昔を思い出したのか小さく笑みを零す。
再び賑やかな港の往来へ出たライムとナツは食堂で話し合ったことを確認する。
「左右に別れて乗せてくれる船を探すんだよね」
「はい、一刻後にここで待ち合わせです。
気の荒い人もいますから気をつけてくださいね」
後でね、と手を振って別れるライムとナツ。
宛もないナツはまずは偵察だ!と元気に賑わい人の往来の多い中で荷降ろしをする船乗りや、逆に荷物を船に載せている船乗り、怒号のような指示を飛ばす声、既に仕事が終わって船のそばで樽を椅子替わりにして酒盛りをしている者を眺めながら歩いていく。
立派な所謂豪華客船から、小さな漁船まで、多種多様の船が係留されている港はそれだけで壮観な眺めになっている。
誰がどの船の人なのか、さっぱり分からないな、と誰に話しかけようかとナツはキョロキョロと辺りを見回しながら端の方へ歩みを進める。
「あの、森の国へ行ける船、知りませんか!」
端まで歩いて分からない!と言う結論になったナツは来た道を戻る途中、酒盛りしている男達に近づいて声を掛ける。
男達の大声に負けないように声を張り上げれば楽しい気分に水をさしやがってとばかりに沈黙が支配し、ちらりと一瞥した男達は陽気そうな表情を引っ込めて不機嫌そうにも見える表情でナツを値踏みするように見る。
「なんでぇ、お貴族様」
「森の国へ行きたいんだけど、チケットで乗れる船が無くて。
だから、私達を護衛として乗せてくれる船を探してるの、おじさん達知らない?」
けっ、と小馬鹿にしたような男の言葉にとりあえず話は聞いて貰えそうだと判断したナツが事情を話す。
「おい、おめぇら
お貴族様がタダで乗りてぇらしいぞ。
そんなお人好しの船知ってっか?」
明らかにバカにした響きにナツは少しムッとした表情を浮かべるが我慢我慢、と内心で言い聞かせて黙って男達の返答を待つ。
「知らねぇなぁ、少なくとも足手まといのお貴族様は大金積まれたって俺らは乗せねぇよ」
小馬鹿にした目にはんっと鼻で笑われて帰ってきた言葉にナツが両手を握る。
「足手まといじゃなかったら乗せてくれる船、知ってるの?」
男の言葉にぎゅっと眉間に皺を寄せて続けて尋ねる。
しかし、男達は知らねぇ、もうどっか行けよ、お嬢ちゃん。とナツを追い出してしまう。
もう話も聞いて貰えない雰囲気にナツは小さく溜息をつき再び話を聞いてくれそうな人を探して歩き出す。
「なんで、こんな目に合わなきゃいけないんだよ……私、勇者として世界を救えって言われてるんだよね?」
むしろ私が今助けて欲しい、と言うナツの言葉は港の喧騒に掻き消された。