◆聖王都北西街道④
「これで多少マシになった、と信じているよ。
……いや、正直ナツの方は心配だから魔王を倒す旅なんて辞めておけ、と言いたいが王命じゃ勝手に辞めれねぇもんなぁ」
港に到着し、荷車から降りたナツとライムに声を掛ける木葉がゴソゴソと懐を漁り、餞別だ、くれてやる。とちょうど首から下げられそうな長い紐のついた、手のひらに握り込めそうな程の小さな巾着を投げて寄越す。
「わ……っ、あ、ありがとう!
……これは?」
「護符、ですか?」
落とさないように2つとも掴んだナツが1つをライムに手渡す。
どうやら中に何かが入っているらしい硬さにナツが首を傾げ、中身から漂う魔力の気配にライムが確認するように木葉へ視線を向ける。
「私達ドリアードに伝わる古くからあるお守りだ。
大精霊であった祖の加護が得られるらしい、真偽の程はわからんが気休め程度にはなるだろう」
ナツとライムの問いかけに肩を竦めた木葉が照れ隠しのようにそっぽを向いて頬を掻く。
短い交流だったが、確かに芽生えていた絆にナツの顔が綻ぶ。
「ありがとうっ、大切にするね!」
お守りを大事に両手で握りしめたナツが太陽のような明るい満面の笑みを木葉に向ける。
その様子をほんの少し微笑ましげに見たライムも大切にお守りを首にかけて木葉に向き直る。
「本当に何から何までありがとうございます。
とても助かりました。
木葉さんが、道中の同行を申し出て下さらなかったら今頃……私も勇者ナツも魔獣の晩御飯になっていたかもしれません。」
本当に感謝しています。とライムが深々と頭を下げる。
不機嫌そうにも見える木葉がついでだ、気にするな。とそっぽを向いたまはま小さく応える。
そのまま、さぁ、いけ。と木葉がナツの体を反転させてその背を押す。
押されてたたらを踏んだナツの目の前には、多くの人々が行き交う港が開けていた。
「本当に、本当に、ありがとう!
また、会おうね、その時にはなにかお礼をさせて!」
「そうだな、期待はしないで待っておくよ」
肩越しに振り返るナツが最後のお礼を述べれば木葉が苦笑しながらはいはい。と軽くあしらう。
「きっとまた会える……ううん、会いに行くよ」
木葉の方へ体を向けたナツがだから、またね!と手を振って歩き出す。
「待ってください、勇者ナツ!
勝手に行かないで……!迷子になりますよ!
……本当に、ありがとうございました。
あなたに大地の加護がありますように」
「気にすんな。
あんたも苦労を抱え込みすぎんなよ。
お前達にも空の祝福がありますように」
ライムがずんずんと歩き出したナツに声を上げながら慌てて木葉に頭を下げて手早く別れの挨拶を済ませる。
背を向けて走り出した2人の姿を見送った木葉が眩しげに目を細め2人の姿が見えなくなってから馬車を走らせる。
港の喧騒と潮騒の香りが漂う道をそれぞれの目的へ向けて。