表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gaillardia・Coral   作者: 海花
旅立ち
15/102

◆聖王都北西街道③

あれから何度もナツが大剣を構えて振り下ろすが結果は全て同じ。

一向に魔獣に当たる気配がない。

ライムの魔法で雁字搦めに囚われて身動きの全てを封じられている動かない魔物相手にいっそわざと外しているのかと疑いたくなるほど当たらない。

全て外れる。


「な、なんで……っ?」


逃げ疲れたのか肩で息をしながらナツがどうして当たらないんだよぅ。と小さく泣き言をこぼす。


「いっそ可哀想になるくらい当たらねぇなぁ……」


ナツのあまりの命中率の低さに1周回って面白くなったらしい木葉が目を逸らしてやや俯きながら小さく肩を震わせている。


「相手をよく見て刀身の真ん中で狙うように振り下ろしてごらんよ、それで外したら違う意味で天才だよ。

まぁ、急所狙うなら普通は切り上げるけどな」


笑いを堪えているせいで歪んでいる口許を隠しながらそれでもアドバイスだけは的確に送る木葉がこんなに外すことある?と言いたげにライムを見れば、仕方ないと思います。と言いたげな顔で肩を竦めて応える。


「相手を、よく見て……」


逃げ続けて肩で息をしているナツが木葉のアドバイスに深く深呼吸したあとしっかりと魔獣を見据え大剣を握り直す。


「うりゃあああっ、覚悟ぉぉおおっ!」


威勢のいい雄叫びと共に力強く踏み込み大剣自体の重さを利用するように勢いよく振り上げる。


ぶちっ、と確かな手応えと共にナツはぶつかった何かを力任せに、強引に引きちぎる。


「あ、」


「切れたっ!」


ライムの小さな吐息のような声と重なるように歓喜の声を上げ、どう?と言いたげにライムと木葉を振り返ったナツの耳を轟音が劈き、全身に叩きつけられるような衝撃と共に首が絞まりグエッ、と年頃の少女の口から出てはいけない声が漏れると同時に鋭利な何かが目の前を通り過ぎていく。

掠った髪の毛が引きちぎれて宙を舞っている。

ついでに少し焦げ臭い。


「馬鹿か、死にてぇのか!!」


耳元で響いた怒鳴り声にナツが視線を上げれば襟首を引っ掴んだままの木葉が眦を吊り上げて凄まじい怒気と共にナツを見下ろしている。

ひぃ、と情けない声がナツの喉から零れる。

どうやら魔獣の攻撃を向けられた土壇場にナツの襟首を掴んで引っ張ってくれたようで僅かに息が上がっている。

空気を震わせる怖気のする咆哮にナツがギギギ、と音がしそうな速度で首を捻るとそこには無傷の魔獣が苛立たしげに地面を鋭い爪で抉るように叩き、バチバチと音を立てる大角の付いた頭を振っている。

苛々してる馬で見た仕草だな、とナツが一瞬現実逃避をする。

先程通り過ぎたのはこの魔物の放った雷撃らしい。

近くの草がプスプスと煙を上げて真っ黒に焦げている。

木葉が間に合わなかったらああなっていたのは自分だと思うとナツの背中に冷たいものが伝う。

ナツが先程、力任せに引きちぎったのはライムが魔獣を捉えるために放った魔法で生え、魔物を絡めていた植物だったようで魔獣の足元に力なくだらりと落ちている。


「魔術師、さっきのもう一度頼む」


「魔法使いです!"森よ!"」


木葉の言葉に即座に訂正を入れながらライムが手にしていた杖で地面を叩く。

再び意志を持つように蠢き始めた植物が魔物を捕らえるのが早いか、木葉が動いたのが早かったか。

どちらが先に決着をつけたかは不明だが、植物が魔獣の動きを封じるように絡めとった時には木葉の短剣が魔物こ首を切り裂き、血飛沫とともに怒りに満ち溢れた魔物の首が宙を舞っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ