◆聖王都北西街道①
「…あんたたちそんなことも知らないで二人旅なんて……死にたいの?」
道端に飛び出してきた魔獣を一発で仕留めたドリアードの学者、木葉が呆れたようにため息をつく。
宴のあとドリアードの長に行き先を尋ねられた際に南に行きたい。というナツに
南に行くなら陸路よりも一旦北のアイマール港から緑の国へ行くといいというドリアードの長のアドバイスにそれなら、と港に用があるという木葉が道案内を買って出てくれたおかげで
ナツとライムは屋根の無い荷馬車に揺られながら御者台の木葉の魔物の始末の速度にナツが感嘆の声を上げているので急所をついているだけだと説明した時のナツが首をかしげ今に至っている。
「魔物に限らず生き物には急所があってその急所を叩くと大きなダメージが与えられる」
「魔物のランクが上がれば上がるほど急所の特定が困難、もしくは急所自体が狙いにくい場所になってきます。
人間なら喉とか心臓とかですね」
木葉とライムの説明にナツがへぇ、知らなかった。と感心したように頷いている。
「それでも一撃で確実に魔物を仕留める、というのはなかなかできるものではありませんけどね」
「ドリアードは反射速度はそれなりに高いからね。
それに、フィールドワークするには自衛手段が必要だしなぁ、数をこなせばそれなりにできるようになるさ」
純粋に尊敬するような視線を向ける。
そこにほんのり照れたような顔で木葉が肩をすくめる。
「まぁ、でも……港までの道中の間見てあげるよ。
特にこの子、剣もろくに握ったこと無さそうだし
2人旅で1人だけしか戦えないんじゃ困るだろう?」
「え、良いの!?」
「護衛としては不甲斐ないばかりですがそうしていただけると助かります。
さすがに前衛の戦い方を教えることは出来ないので……」
稽古をつけてくれそうな木葉の言葉に瞳を輝かせたナツが強くなっちゃうぞー、と大剣に手を触れ、ライムがよろしくお願いします。と頭を下げる。
「ほら、早速お出ましだよ。
頑張りな」
そう言って木葉はナツの襟首を掴んで前方へ勢いよく投げ飛ばす。
片腕とは思えない勢いに何が起きたかよく分からないナツが受け身も取れずにぶべ。とカエルが潰れたような女子にあるまじき声を出して地面を転がる。
「そいつの急所は喉だ、難しいことは無いから頑張りな」
「角からの電撃と爪の毒には気をつけてくださいね」
ようやくフラフラと立ち上がったナツの目の前には鹿のような生き物がふーふーと荒い息を上げている。
立派な黄金に輝く角と体躯は鹿に似ているがその口から覗く牙はどう見ても草食獣のものではなく狼のような肉食獣を想像させる。
足元も虎やライオンのような太い脚に頑丈そうな爪が踏み固められているものの轍の目立つ未舗装の地面にくい込んでいる。
腹が減っているのか口からはヨダレがぼたぼたと地面に落ちている。
真っ赤に染まった目がナツを見据え、笑ったように見えた。