◆ドリアードの村④
入浴を済ませ、ドリアード達が用意した柔らかな光沢のあるワンピースに身を包み、流されるままに席に着くなり妙齢の女性ドリアードが木のジョッキを手に乾杯の音頭を取る。
「我らが英雄に乾杯!」
その声に割れんばかりの歓声のような明るく賑やかなドリアード達の声が乾杯!と声を上げてグラスを掲げる。
雰囲気に流されるままに乾杯、とジョッキを持ち上げたライムとナツがジョッキに口をつけると華やかな果実の香りと甘さが口いっぱいに広がる。
「美味しいっ!」
「これは……たしかに美味しいです。
王都でもこれほどの飲み物を手に入れるのはかなり難しいかと思います。
こんな豪勢な宴を開いて下さり感謝します」
これまで飲んだこともないような芳醇な香りの深い赤色の果実酒に目を見開いたナツの横でライムも驚いたように目を瞬かせてグラスの中身をじっと見つめたあとテーブルの上の料理を見回してドリアードの長へ深々と頭を下げたライムに続いてナツも頭を下げる。
「とんでもない、頭をお上げになってくださいな。
私達は森の管理人などと呼ばれておりますが攻撃手段をほとんど持ち合わせない種族。
あの黒き厄災の獣の前に我々は怯え隠れ己の宿木が引き裂かれないことを祈るしか無かった。
それをあなた方が救って下さった」
感謝してもしきれません。と長い髪のような枝葉を揺らしたドリアードの長がふわりと笑う。
長く白い衣を揺らし微笑む様は女王と呼ばれるにふさわしい品位があった。
「それに、この食べ物の食べ方は以前に泊まりにいらした黒い魔法使いが伝えてくださったものですから」
私達の手柄ではないのです。とほんの少し恥じらいを乗せた顔にライムの顔が僅かに強ばる。
「あの、その魔法使いって黒い髪にやたらと華美な服を着てモノクルをかけたやたらと態度のでかい小柄な少女ではありませんでしたか?」
ライムの問いかけに、あら、お知り合いだったのですね。とドリアードの長が驚いたような顔をうかべる。
「古い学友です」
あの子は本当に……とため息をついたライムにナツがでも悪い子じゃなさそうだったよね。とフォローする。
そんなライムに悪い子では無いんですけど……色々性格に問題があるんですよ。と眉間に皺を寄せる。
「あの人の性格に難があるのはなんかわかる、わかるよー
私の事解体しようとしたり、森の中で容赦なく火炎魔法使うし」
すっかり出来上がっていたドリアードの1人が過去に来訪した時を思い出したのかケラケラと笑う。
その声を皮切りに私も、俺も……と様々な苦情とも取れる証言がこぼれる。
「……同志がご迷惑をお掛けしました」
ライムが引きつった顔で頭を下げる。
その横でナツが話題に飽きていたのか机に突っ伏して寝息を立てていた。