◆薔薇の国、黒薔薇の館、応接室②
「……スーも普段からこういう連絡だけしてくればいいのよ」
ガリウスからマーロック王国のスペリア女王から託された手紙を受け取った漆黒は眉間に皺を寄せてその手紙を読み切ると額を片手で抑えながら深い溜息を吐く。
「私達が聞いてもいい事なら聞きますよ?」
「向こうも魔物被害が多くて自国に逗留している騎士団の損耗が凄まじいので魔物避けのような魔道具はないか?と言うと問合わせよ。
まぁ、使える伝手全部に聞いてるんだろうけど」
すかさず声をかけるライムに迷うようにうーん、と唸ったあとでまぁ、いいか。と再び溜息をついてから漆黒は手紙の内容を説明する。
「ナイアー、あれ持ってきてくれる?
地下室に死蔵してるやつあるでしょ?」
「おや、よろしいので?」
「アレはもう僕が持っててもしょうがないものだしね」
手紙をヒラヒラとふりながら漆黒が褐色肌の執事に命じれば意外そうに片眉を上げた執事にいつでも量産できる。と肩を竦めた漆黒にわかりました。と笑顔で一礼したナイアーと呼ばれた執事は滑るように静かに部屋を辞する。
「……あるのですか?」
「当然でしょ?
あぁ、ついでだし月白達にも1つあげるわ。
滞在は自由にしてくれて構わないから改良案出してくれるかしら?」
まさか本当にあるとは思っていなかったらしいガリウスが手紙を渡した時の片膝をつく姿勢のまま信じられないというように目を見開いて漆黒を見つめれば小馬鹿にしたような笑顔で応えた漆黒はライムを見たあとでいいことを思いついた、と言うように話を振る。
「……それが課題ですか?」
「僕をパーティに加えたいなら価値を示してくれなきゃ、ね?」
渋い顔をするライムに漆黒はそれ以外でもいいけどメリットを示せ。と口外に告げる。
「因みに漆黒の改良案は幾つありますか?」
「うーん、草案レベルなら5つかな」
渋い顔のまま問いかけるライムに考えている改良案を指折り数えた漆黒が笑顔で示した数にライムの眉間のシワが益々深くなる。
「そこに高貴な血の高等な教育を受けたお仲間が居るのだから知恵を借りればいいのよ。
王侯貴族は知識階級、なんでしょ?」
敵意と悪意を隠しもしない邪悪、とも取れる笑みを浮かべる漆黒に水を向けられたナツは、え?とクッキーを食べようとした姿勢のまま固まる。
「私で、役に立つかな……?」
困ったように愛想笑いを浮かべて応えるナツと嘲笑いを浮かべる漆黒を交互に見比べたライムが素人になにを……、と苦言を呈するがそんな事を意に介さない漆黒は益々笑みを深くして口を開く。
「戦いもできない、知恵もない、贅沢とわがままだけは一人前の尊き血とやらに一体なんの価値があるの?」
明らかな嘲笑混じりの笑いに即座にライムが小さく呻き、王侯貴族が嫌いだと察したナツは困った笑みを浮かべ、悪意を感じ取ったセンとキー、苛烈と聞いていて空気に徹していたゐぬも顔を引き攣らせる。
その中で特に課題も出されず、使える主人である常温の要望に応えてくれそうだと安堵するガリウス達 《黎明の黒翼》はほんの少しだけ気まずそうな笑みをこぼした。