◆薔薇の国、黒薔薇の館前
「降りて。
馬車はここまでよ」
途中で馬車から降りるように言われたナツ達が言われるままに馬車から降りると目の前には薔薇で作られた生垣にアーチに彩られた豪奢な黒鉄の門。
同じく黒の石畳で舗装された先に影絵のような水の精霊の掲げる水瓶からとめどなく清らかな水が流れつ続ける噴水。
さらにその先には門や庭と同じく真っ黒な鋭い尖塔を持つ小さめの城としか言いようの無い屋敷が見える。
植えられた薔薇の暗い緑すら影と勘違いしそうな色彩の中で咲き誇る赤だけが際立って目立っていた。
「すっごい……」
「うちの屋敷より広そうってのもそうだけど、威圧感半端ないな……」
その景色に息を呑んだナツは瞳を大きく見開いて動きを止め、続くセンもキーに小さく耳打ちするに留める。
「ようこそ。
薔薇の亡国、黒薔薇の館へ」
馬の背から降りて口角を上げ、不吉な笑みを浮かべた漆黒が黒いスカートを指先でそっとつまみ膝を曲げて社交界でも中々見ないほど美しいカーテシーで一行を迎える。
その動きに合わせて誰も触れていない門が鈍い音を響かせながらゆっくりと開いていく。
「歓迎するわ」
顔を上げた漆黒と目が合ったナツはその瞳に籠った絡みつく蛇のような悪意のようなものに気が付いてぶるりと身を震わせる。
くるりと身を翻す漆黒が付いてこいとばかりに歩き出す。
ドラゴンゾンビを一人で瞬殺し、森での伏兵も簡単に殲滅してみせたその姿をナツは改めて観察しながらライムに促されて歩き出す。
高いヒールに厚底のパンプスを履いているが背丈はナツよりやや低いくらいなので実際の身長は恐らくライムやセンより少し高いくらいでキーちゃんよりは低い。
腰よりも長い黒い髪は陽の光で赤を弾き、緩くうねっているのは恐らく生来のくせ毛はハーフアップに束ねられて赤いリボンで飾られている。
首周りは広く開き、肩口を膨らませ、大きく広がる袖、胴体部分はリボンで編み上げたコルセットのようにピッタリと体に沿い代わりのように広がるフリルをたっぷりあしらったスカートのワンピースは裾からレースが覗いている。
線の細い上半身と膨らんだスカートから覗く足が少女らしい華奢さを強調している。
人形のように可愛らしい服装だが、その全ては黒で構成されている、いわゆるゴシックロリィタと言うファッションの少女は真っ直ぐ背筋を伸ばし前を見て歩いている。
高位の貴族令嬢だったのだろうか、と思いナツは自分達の服装を見直す。
まがいなりにもナツは大国ヤースガーフン皇国の第一皇女であり、センもコードウィガルド王国の領主の令嬢であり、本人から明言はされていないが交易の中心地の港町を領地とするならば子爵より下の位という事はないだろう。
キーだって令嬢の専属使用人ならばそれなりに出自と血統を求められるだろうから平民ということは無いだろう。
そんなナツ達の服装は、センは紫のハイネックのシャツにオレンジ色の半袖の大きなポケットの付いたジャケット、革製の赤子なら優に入りそうな大きさの斜め掛けのショルダーバッグにスニーカー。
キーは襟元に編上げの入った生成のシャツに袖にベルトの装飾の付いた緑色の膝丈の綿コートに黒い綿のパンツ。
センと同じく革製の三角形に近い形のワンショルダーバック、腰から折りたたみ式のボウガンを下げている。
ナツは厚手の綿生地で作られた深緑のフード付きロングコートに黒い半袖の長めのシャツに黒い綿パン、指先のないタイプの手袋にスニーカー、頭につけたうさ耳にも見えるピンと伸びた白い髪飾りに腰にボディバック背中に古い革鞘に入った大剣と言う出で立ちで華はない。
令嬢なのに、華がない。
白いとんがり帽子に胸元の赤い大きなリボンが差し色になった白い長袖のフード付きの上着に、白いワンピースにサンダルを履いているライムが1番華があるまである。
ライムは宮廷魔導師としか名乗ってなかったが貴族令嬢あったとしてもサンダルは無い。
ゐぬは男性なので華を求めるのは酷だろうとメンバーを改めて見たナツはこれでほぼ全員貴族かそれに近い地位なんだよな、見えないけど。と小さく溜息をついた。




