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炎陽の退魔師

 燈火が一歩近づく度に銀鬼は一歩後ずさりするが何度かそのやり取りをすると後退するのを止めた。


『い、いい気になってんじゃねえぞこのヤロウ! さっきの炎だって俺や兄者には大して効いちゃいなかった。さっきみたいにズタズタのボロ雑巾みたいにしてやるぜぇぇぇぇぇぇ!!』


 意を決した銀鬼は己を鼓舞しながらフルスイングのこん棒を燈火に叩き付ける。燈火は躱す素振りすら見せずに銀鬼の本気の一撃を刀で受け止めた。

 その時、燈火は片手で持った緋ノ兼光でその場から微動だにすることなく銀鬼の攻撃を凌ぎ切る。

 顔色一つ変えることの無い燈火に対し銀鬼は目を見開き驚愕の表情を見せるのであった。


『そんなバカなっ!? 俺の本気の一撃を……片手で受け止めただと!』


「これがお前の全力か。話にならないな」


 燈火はこん棒を切り払うと銀鬼を袈裟懸けに斬る。鋭く刻まれた斬撃の痕から黒い血液がほとばしり、銀鬼は後ろへと下がっていった。


『ただの斬撃でこんな……嘘だろぉぉぉぉ!』


「刀身に高密度の妖力を集中して斬ったんだよ。さっきのお前の攻撃は武器に妖力がちゃんと伝わっていない中途半端なものだった。それとさっき俺が使った閻魔えんまだけど、あれは効果範囲を広げた分威力が弱まっていた。攻撃範囲をお前だけに絞ればどうなるか……試してみるか?」


『ヒ……ヒイィィィィィィィィ!! あ、兄者助けてくれ。こいつは俺一人じゃ無理だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 凄みを利かせる燈火のプレッシャーに完全に呑まれた銀鬼は金鬼に助けを求め、それに応じて金鬼が銀鬼のもとへやってきた。

 銀鬼が安堵の表情を見せると金鬼はニヤッと笑い弟の腹を手で貫く。

 

『あ……あにじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……な……なんで……?』


『銀鬼、お前は今までよくやってくれた。これからは俺の身体の血肉となれ。――本望だろう? お前が慕う俺の一部になれるんだからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 銀鬼の身体はドロドロになり金鬼の身体に溶け込むようにして消えていった。それと同時に金鬼の身体が一回り巨大化し筋骨隆々の肉体へと変化する。

 その一部始終を燈火は涼しい怒りを感じながら見ていた。


「随分残酷なことをするじゃないか。銀鬼はお前の兄弟だったんだろ? それを手に掛けるなんて……鬼にしては珍しく兄弟愛のある連中だと俺は思っていたんだけどな」


『兄弟愛ならあるさ。俺は今までずっと、おつむの出来の悪い弟の面倒を見てきたんだ。それ故あいつは俺を絶対の存在として崇めていた。そんな俺に吸収されるのは、あいつにとって最大の誉れなんだよ』


「――よく言う。お前は弟の最期の顔をちゃんと見なかったのか? あんな絶望した表情をしたヤツが喜んでいたとでも思っているのか? とんだ兄弟愛だな」


 緋ノ兼光を固く握りしめ妖力を込めると、燈火は正面から金鬼に向かって行く。銀鬼を吸収しパワーアップした金鬼もまたこん棒を構えて迎え撃つ。

 互いの得物がぶつかり合って鈍い金属音が周囲に響き渡ると、そこから激しい連撃合戦が開始された。

 目にも留まらない速度で繰り出される刀とこん棒の応酬がしばらく続くと二人は一旦距離を取って再び接近し連撃を再開する。

 それを何度も繰り返していく。


『あれだけ痛めつけたのに大したもんだぜ。さっき酒呑童子の生まれ変わりだとか言っていたが、それもあながち間違っちゃいなさそうだなぁ! それならお前を倒せば俺は酒呑童子以上の鬼として箔が付くってもんだ。くたばりなぁ、小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


「――うるせーよ」


 金鬼の攻撃が大振りになった瞬間を見逃さず燈火は連続斬りをお見舞いする。しかし金鬼は全く怯む様子もなくこん棒を振ってきた。

 燈火は後ろに跳んで攻撃を躱すと、金鬼の身体に斬撃のダメージがない事に気が付く。状況を訝しむ燈火の顔を見て金鬼は満足そうに高笑いをした。


『これで分かっただろう? 俺の身体は物理攻撃に加え魂式や妖力を通した攻撃すら弾き返す。究極の肉体を手に入れたんだ。お前に勝ち目なんて全くないんだよ! ぎゃはははははははははははは!!』


「究極の肉体……か。楽しそうなところ悪いけど俺も暇じゃないんでね。――次の一撃で終わらせる」


 燈火は刀を鞘に収めるとやや姿勢を低くし右脚を前に出して前屈みになる。それは抜刀術の構えだった。


『一撃で終わらせるだと? ふん、いいだろう。究極の鬼となった俺に今更攻撃が効くとは思わないがな』

 

 金鬼は自らの強靭な肉体に絶対の自信を持ちノーガードの体勢を取っている。燈火はその身に宿る魂式と妖力を一つにまとめ上げ緋ノ兼光に集中していった。

 鞘に収まったままの刀から集中した力が溢れだすように赤い光が広がっていく。

 そして燈火はその場から消えて一瞬で金鬼の目の前まで移動した。


『なっ!?』


 予想を遥かに上回る燈火のスピードと気迫に金鬼は驚き無意識に両手でガードしようとするが、燈火の攻撃速度はそれを上回る。


「六波羅炎刀流奥義、きゅうノ型――火具土かぐつち!!」


 目にも留まらぬ速度で鞘から解き放たれた炎の刃は一瞬で金鬼の身体を下方から斜めに斬り上げた。

 敵に一太刀を浴びせると燈火は後ろに跳び退いて距離を取る。

 金鬼は斬られたところを触るが、見たところ斬撃の痕はない。それが分かるとニヤリと笑い燈火の攻撃が効かなかったのだと大笑いする。


『ひゃははははははははははははは!! あんなに自信満々で打ち込んだくせに全く効いてねぇぜ。ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 テンションマックスの金鬼とは対照的に燈火の反応は水を打ったように静かだ。それから刀を鞘に収めて藻香たちの所へ歩き出す。

 

『おい! 敵前逃亡するんだったら敗者らしく慌てふためいて必死で逃げろよ。なに余裕ぶっこいてんだてめえ!!』


 燈火は金鬼の方に振り向くことなく仲間の所へ歩いていく。そして追ってくる敵に対し決着は既に着いたと言い捨てた。


「火具土は斬撃を食らわせると同時に敵の体内に炎を流し込み体内から燃やし尽くす技だ。――もう、お前は終わってるんだよ金鬼」


『……は? なにバカ言ってやが――』


 その時、金鬼の身体に斬撃の傷が出現しそこから炎が噴き出し始めた。さらに今度は目や口からも炎が噴き出し、屈強な身体を内側から焼いていく。


『ギャバババババババァァァァァァァァァァァァ!!!』


 太陽の如き深紅の炎に焼かれて金鬼は絶叫しながら灰となって消滅していった。


「自分が斬られたことにも気が付かないバカが最強の鬼とか勘違いも甚だしい。酒呑童子の名誉とかに未練なんてこれっぽっちもないけど、お前みたいなクズにくれてやるほど安くないんだよ」


 こうして燈火や藻香を窮地に追い込んだ金鬼、銀鬼との戦いは燈火の覚醒により決着を迎えた。

 そして、酒呑童子としての記憶が甦った彼の目の前には、かつての妻である玉藻前の転生者の少女がいる。

 

「ただいま、藻香」


「お帰りなさい、燈火」


 この先彼らを待ち受けるのは千年前に戦い相討ちとなった宿敵〝羅刹らせつ〟。

 輪廻転生を経て過去の記憶を取り戻した燈火と羅刹の時を超えた運命の戦いが始まろうとしていた。

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