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酒呑童子の転生者

 金鬼に首を絞められていた燈火の目から光が消え全身が脱力し動かなくなった。

 

「燈火? とう……か? いやああああああああ、放して、放して!! 燈火ァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 動かなくなった燈火の姿を目の当たりにした藻香の悲痛な叫び声が周囲に響き渡る中、金鬼や銀鬼は心底楽しそうな表情を浮かべていた。


『兄者、そいつ殺しちまってどうすんだよ。せっかくそいつの目の前で面白いことをしてやろうと思ったのによー』


『すまんすまん、ついうっかり力を入れ過ぎちまったみたいだ。でもまあ、やることは変わらねえんだしいいだろ?』


『兄者は分かってねえなぁ。そいつの悔しそうな顔を眺めながらやるのがいいんじゃねえかよ。でもまあ、死んじまったもんは仕方がねえ。……それじゃ、楽しませてもらおうとするかぁ』


 銀鬼が下卑た笑いで表情を歪ませながら藻香に手を伸ばしてくる。燈火の変わり果てた姿を目の当たりにし放心状態になった藻香は抵抗する素振りすら見せない。


 全てが絶望一色に染め上げられようとした時――それは起こった。

 

 金鬼に首を絞められ動かなくなっていた燈火から突如深紅の炎が放たれたのである。その炎は金鬼の両腕を一瞬で燃やしていった。


『ぎゃあああああああああ!! あちぃぃぃぃぃぃぃぃ、何だこりゃあああああああ!!』


 あまりの熱さと痛みで燈火から手を離した瞬間、先程まで力なくうな垂れていた少年は金鬼の顔面に拳を打ち込み思い切りぶっ飛ばした。

 金鬼が離れると、燈火は素早い動きで近くに落ちていた緋ノ兼光を拾い上げ銀鬼に向かって行く。

 突然の出来事に思考が追いついていない銀鬼の目の前に刀を構えた燈火が現れる。


「薄汚い手でそいつに……触れるなっ!!」


 言うや否や燈火は緋ノ兼光で銀鬼の腕を斬り落とし藻香を救出した。


『ぐああああああああ、俺の腕があああああああ!!』


 縮地でその場から消えると燈火は熊童子の近くへと姿を現す。その腕の中では藻香が信じられないものを見るような目で燈火を見ていた。


「燈火……無事……だったの?」


「ああ……俺は大丈夫だ。ごめんな、助けに来るのが遅くなって……怖かったろ」


 藻香の目から大粒の涙が溢れ燈火の胸に顔をうずめる。泣きじゃくる彼女の背中をぽんぽんと優しく叩き「大丈夫だよ」と言って落ち着かせる。


「もう大丈夫だから安心してくれ。藻香は〝熊〟の傍にいてやってくれ。あのダメージじゃ、しばらく動けないだろうけど命に別条はないはずだ」


「え……燈火、今……熊って……」


 燈火は藻香を熊童子の近くで降ろすと周囲に溢れかえる妖から二人を守るように立ちふさがる。藻香はそんな彼の雰囲気がこれまでとは違っている事に気が付いていた。

 

「私の知る限り熊童子を熊って呼んでいた人物は一人しかいないわ……燈火、あなたはもしかして……」


『う……ぐ……、玉藻前さま……?』


 満身創痍であった熊童子であったが藻香の癒火によって傷はほとんど回復し意識を取り戻した。

 藻香から状況を聞いた熊童子は敵の集団と対峙する少年の背中にかつての主の姿をダブらせる。


 腕を斬り落とされて苦しんでいる銀鬼は今しがた自分たち兄弟を傷つけた少年を怒りの形相で睨んでいた。


『この……野郎!! 殺してやる……絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅ!! お前等、なにぼさっと突っ立ってやがる。とっととそいつを血祭りにあげろやあああああああああああ!!』


 金鬼と銀鬼を傷つけた燈火に恐れを抱き距離を取っていた妖たちであったが、銀鬼の鬼気迫る殺気に促されるまま襲い掛かる。

 その中の多くは燈火の隙を突くために無防備になっている藻香と熊童子を狙っていた。

 敵の卑劣な狙いなどお見通しな燈火はその身に宿った新たな力……いや、本来持っていながらも過去に封印していたその力を解放した。


「雑魚を一体ずつ相手するのは面倒だ。まとめてぶっ潰してやる! 六波羅炎刀流奥義、漆ノ型改――閻魔えんま!!」


 燈火の力は緋ノ兼光から深紅の炎となって広範囲に放たれる。その炎に触れた妖たちは一瞬で火だるまになり消滅していく。

 藻香と熊童子に攻撃をしようとしていた妖の群れは目標に全く接近することも出来ずに全てが灰燼かいじんに帰すのであった。

 銀鬼と金鬼だけはダメージを受けたものの、致命傷には至ってはいない。但し、その表情は驚きに満ちていた。

 それは藻香と熊童子も同様だ。何故なら今しがた燈火が放った炎の源は魂式では無かったからである。

 その力は――。


『な……どうしてお前が妖力を使えるんだ!? それに……この妖力の質も量も普通じゃねぇ……本物のバケモンだ……』


 比較的近くで深紅の炎を浴びた銀鬼は燈火の実力を理解し身体を震わせていた。それは今まで感じたこと無い恐怖によるものであった。

 一方、藻香と熊童子は燈火が放った深紅の炎と妖力を知っていた。それはかつて彼女たちと行動を共にしていた、ある鬼の力だったからである。


「燈火、あなたはもしかして…………酒呑童子……なの……?」


 少しの沈黙の後、燈火は敵を正面に見据えたまま藻香の質問に答える。


「――どうやら、そうみたいだな。俺、思い出したよ。千年前、お前たちと一緒にいた頃のことを。あの時どういう最期を迎えたのか……そして、今自分が何をすべきなのか……ちゃんと思い出した。だから、安心して待っていてくれ。こいつらは俺が倒す」


「うん。――待ってる」


 藻香の目から涙がこぼれる。千年前つがいの契りを交わし、それから間もなく死に分かれた夫との本当の意味での再会に胸がこれまでにない程に熱くなっていた。


 妖力をみなぎらせる燈火の髪と瞳は赤く変化し身体から赤いオーラを放ち始めた。

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